数か月前には、中国における医療従事者の感染や医師の死亡が報道されていました。
患者の多くは軽症という報告もされていますが、今後感染者に対応する可能性のある医療機関の職員や医療従事者は不安でしょう。ここでは、診療による感染、そして死亡という万が一を補償する労災補償制度について改めて確認します。
民間病院と公的病院に対応する労災補償制度がわが国にはあります。原則としてアルバイトを含むすべての労働者に適用されます。雇用契約がないとこの制度は使えないので学生やボランティアには適用されません。
労災保険法に規定される労災補償制度には、感染症による業務上疾病の要件に、“患者の診療で感染した…”ということが含まれています。これまで、重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)は日本で報告はないので、これらの感染症により労災補償制度が使われたことはありません。2009年の新型インフルエンザ流行時の場合には、2009年5月11日に事務連絡が出て、「医師、看護師等が患者の診断もしくは看護により、新型インフルエンザに感染し発症した場合には、原則として保険給付の対象となる…」と示されました。しかし、その後は市中でのインフルエンザ感染が当たり前になり、診療行為による感染かどうかの判断が難しかったので、実際にどの程度が請求、認定されたかはわかりません。
「労災補償」では、治療費だけでなく死亡した場合の補償もなされます。補償額はそれまでの年収と、配偶者や子供の有無により異なります。例えば、2010年当時に試算をした額を参考までにお示しします。
死亡前1年間の給与が「月収30万円」と「賞与80万円」であった場合は、独身の方の場合は、遺族に対して1500万円程度が支払われると計算されました。同じ給与で、配偶者がいて、子供がいない場合は、一時金300万円、年金として毎年約180万円と計算されました。また、労災補償にも上限があり、月収100万円、賞与250万円の方で子供2人がいた場合には一時金300万円、年金として毎年約640万円(このぐらいの額が上限に近い)が遺族に支払われるようです。
亡くなった場合には、遺族が労災申請を行わなければならず、医療機関は書類などの作成に協力することになります。また、認定は労働基準監督署によりなされます。自動的に支払われるものではありません。
なお、注意が必要なのは、“経営者である開業医や医療機関の院長”は、原則として労災保険の対象とならないということです。
しかし、一定の要件を満たせば労災保険の特別加入制度があるようです。
経営者や管理者は、自分自身が労災保険の対象であるかは各自でご確認ください。
新型コロナウイルス感染に関する労働関連 2020年5月1日現在
~このレポートの流れ~
1.看護職 が感染した場合等の社会保障給付等(労災保険・健康保険ほか)
◎看護職 が感染した場合
1) 新型コロ ナウイルス感染症で入院した場合、治療費や入院費はどうなりますか。
2) 看護職が新型コロナウイルス感染症を発症した場合、労災保険給付の対象となりますか
3) 業務上の理由で、新型コロナウイルスに感染したため勤務を休む場合、所得補償はありますか。
4) 業務外の理由で、新型コロナウイルスに感染したため勤務を休む場合、健康保険の傷病手当金は支払われますか。
5) 新型コロナウイルスに感染したため勤務先を休む場合、勤務先から労働基準法に基づく休業手当
(平均賃金の 100 分の 60 以上)は支払われますか。
◎看護職 が濃厚接触者となった場合、発熱等感染が疑われる場合
6) 本人には発熱等の自覚症状がないものの、家族が新型コロナウイルスに感染し濃厚接触者になったなどの理由により、勤務先を休む場合、健康保険の傷病手当金は支払われますか。
7) 発熱などの症状があるため自主的に勤務先を休もうと考えています。休業手当は支払われますか。
8) 発熱などがあるため、年次有給休暇を取得して勤務先を休むことはできますか。
2.事業休止・一時帰休に伴う給与補償(休業手当ほかほか)
1) 新型コロナウイルス感染症によって、事業の休止などを余儀なくされ、新型コロナウイルス感染症によって、事業の休止などを余儀なくされ、やむを得ず看護職を休業とさせる場合等、休業に際してはどのようなことやむを得ず看護職を休業とさせる場合等、休業に際してはどのようなことに心がければよいのでしょうか。に心がければよいのでしょうか。
1.看護職看護職が感染した場合等の社会保障給付等(労災保険・健康保険ほか)が感染した場合等の社会保障給付等(労災保険・健康保険ほか)
◎<看護職看護職が感染した場合>
1)新型コロナウイルス感染症で入院した場合、治療費や入院費はどうなりますか…?
感染が業務上か業務外の理由であるかを問わず、新型コロナウイルス感染症で入院した場合、感染症法の規定に基づいて入院費などが公費で支払われます。
※「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 」により、指定感染症(新型コロナウイルス感染症 (COVID 19) については 2020 年 2 月 14 日から 1 年間指定)に罹患した場合の入院費は公費で賄われます 。
2)看護職が新型コロナウイルス感染症を発症した場合、労災保険給付の対象となりますか…?
患者の診療若しくは看護の業務又は介護の業務等に従事する医師、看護師、介護従事者等が新型コロナウイルスに感染した場合には、業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として労災保険給付の対象となります。なお、原則として、給付の申請は勤め先から行うことになりますので、まずはお勤め先の人事部門に手続きについて確認してください。また、事業場を管轄する労働基準監督署でもご相談が可能です。
3)業務上の理由で新型コロナウイルスに感染したため勤務を休む場合、所得補償はありますか?
業務又は通勤に起因して発症したものであると認められる場合には、労災保険給付の対象となり、休業補償給付があります。
業務中に新型コロナに感染し、療養のために労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から、業務災害として業務災害として労災保険から、休業補償給付と休業特別支給金が支給されます。休業補償給付は賃金の6割が補償、休業特別支給金は賃金の2割が補償されます。なお、休業の初日から3日目までを「待機期間期間」といい、会社が労働基準法の規程に基づく休業補償(1日につき平均賃金のの60%)を行います。労災保険の給付は原則として、給付の申請は、お勤め先から行うことになりますので、まずはお勤め先の人事部門に手続きについて確認してください。
また、事業場を管轄する労働基準監督署でもご相談が可能です。
4)業務外の理由で、新型コロナウイルスに感染したため勤務を休む場合、健康保険の傷病手当金は支払われますか…?
業務外の理由で、新型コロナウイルス感染症に感染し、その療養のため労務に服することができない方については、ご自身が被用者保険に加入されている方であれば、療養のために労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から、直近12 カ月の平均の標準報酬日額の3分の2に相当する金額が、傷病手当金として支給されます。
なお、労務に服することが出来なかった期間には、発熱などの症状があるため自宅療養を行った期間も含まれます。
また、やむを得ず医療機関を受診できず、医師の意見書がない場合においても、事業主の証明書により、保険者において労務不能と認められる場合があります。まずはお勤め先の人事部門に手続きについて確認してください。
また、国民健康保険に加入する方については、市町村によっては条例により、新型コロナウイルス感染症に感染するなどした被用者に傷病手当金を支給する場合があります。具体的な申請手続き等の詳細については、加入する保険者にご確認ください。
5)新型コロナウイルスに感染したため勤務先を休む場合、勤務先から労働基準法に基づく休業手当(平均賃金の100分の60以上)は支払われますか…?
新型コロナウイルスに感染しており、都道府県知事が行う就業制限により労働者が休業する場合は、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しないと考えられますので、務先勤務先から休業手当(平均賃金の100分の分の60以上)は支払われません。なお、業務外の理由で感染した場合、被用者保険に加入されている方であれば、要件を満たせば、各保険者から傷病手当金が支給されます。また、業務上の理由で感染したと認定された場合は、労災保険の休業補償給付が支給されます。
◎<看護職が濃厚接触者となった場合、発熱等感染が疑われる場合>
6)本人には発熱等の自覚症状がないものの、家族が新型コロナウイルスに感染し濃厚接触者になったなどの理由により、勤務先を休む場合、健康保険の傷病手当金は支払われますか…?
本人に症状がなく、家族が新型コロナウイルスに感染したという理由で勤務先を休む場休む場合は、傷病手当金の支給対象とはなりません。
7)発熱などの症状があるため自主的に勤務先を休もうと考えています。休業手当は支払われますか…?
新型コロナウイルスかどうか分からない時点で、発熱などの症状があるため、看護職が自が自主的に休まれる場合は、休業手当の支払いの対象とはなりません。この場合には、事業場に任意で設けられる有給の病気休暇制度があれば、事業場の就業規則などの規定を確認いただき、これを活用することなどが考えられます。
8)発熱などがあるため、年次有給休暇を取得して勤務先勤務先を休むことはできますか…?
年次有給休暇は、原則として労働者の請求する時季に与えなければならないものですから、理由を問わず取得することは可能です。なお、事業場で任意に設けられた病気休暇がある場合には、事業場の就業規則などの規定を確認いただき、これを取得することも考えられます。
2.事業休止・一時帰休に伴う給与補償(休業手当ほか)
1)新型コロナウイルス感染症によって、事業の休止などを余儀なくされ、やむを得ず看護職を休業とさせる場合等、休業に際してはどのようなことに心がければよいのでしょうか…?
今回の新型コロナウイルス感染症により、事業の休止や縮小 などを余儀なくされた場合において、正規雇用・非正規雇用にかかわらず、労働者を休業させた場合、雇用調整助成金の対象になり得ることも踏まえ、労使がよく話し合って、労働者の不利益を回避するように努力することが大切です。なお、労働基準法第26条では、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合には、使用者は、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60 以上)を支払わなければならないとされています。休業手当の支払いについて、不可抗力による休業の場合は、使用者に休業手当の支払義務はありません。しかし、労使の話し合いの上、有給の特別休暇制度を設ける等により、就業規則や労使協定において休業させたことに対する手当を定める等、労使が協力して休ませる体制を整えていきましょう。
※雇用調整助成金(緊急対応期間:令和2年4月1日~6月30日)の対象となる休業は、所定労働日の全1日にわたるものだけでなく、部署・部門ごとや職種・仕事の種類によるまとまり、勤務体制によるまとまりなど一定のまとまりで行われる1時間以上の短時間休業、または一斉に行われる1時間以上の短時間休業も対象となります。例えば外来部門の時間短縮の際にも対象となりますので、雇用調整助成金を上手にご活用いただき、働き方の工夫を進めていきましょう。