院長の困りごと 2

突然、スタッフから退職の申し出が続き、どう対処したらいいのか・・・?

【1】診療所経営者にとって悩みのタネ「スタッフの離職」の注視すべき4つのサインとは

スタッフ離職の注視すべき4つのサイン

診療所経営において、“スタッフの離職”は頭の痛い問題です。特に、普段の業務中は医師が診察にかかりきりになることも多いため、離職を検討し始めているスタッフが出すサインに気づくことが遅れがちです。
優秀なスタッフや経験豊富なスタッフが抜けてしまうと、代わりのスタッフを雇うために大変なお金と時間と労力がかかるだけでなく、個別の患者さんとのコミュニケーションや行き届いた診療を行う上で重要なカルテには書かれていない情報を診療所が失うことになり、患者サービスの質が低下することにつながります。

また、新たに採用できたとしてもその診療所のスタッフとして仕事を熟知するまでには長い時間がかかり、その間、他のスタッフの負担が増えるだけでなく、サービスの質が低下したり、待ち時間が増えるなど、患者さんの満足度にもネガティブな影響が出やすくなります。
スタッフの離職は、まさに、経営を直撃する大きなダメージと言えるでしょう。

ここでは、限られた交流や普段の業務の中で見極めやすい、スタッフ離職の4つのサインと対処法について紹介します。

サイン1: “スタッフ同士での会話”や“医師とのコミュニケーション”が減る

普段から物静かなスタッフはこの限りではありませんが、今まで楽しそうに他のスタッフや医師と会話していたにも関わらずコミュニケーションが減るのは、退職を考えている際に起こりがちな傾向です。
周囲との調和を大事にする方であればあるほど、退職を考える際には「申し訳ない」という気持ちが強くなり、ついつい話をすることを避けてしまいがちです。「あれ? 最近あの人と話さなくなったな」「話しているところ見かけなくなったな…」と思ったら要注意です。

サイン2:急に仕事に対して積極性がなくなった

今までは積極的に仕事を引き受けてくれていたのに、仕事に対して受け身の状態になってしまっているスタッフは退職を考えている可能性があります。その中でも、

    • もうやめるからまあいいや
    • やめるのに引き受けると後々迷惑をかけてしまう

という考え方の違いもあるので要注意です。後者の場合は、本人にとっても心苦しい部分があるので、積極的に会話などして退職時までサポートや引き継ぎをしっかりとやってもらう必要があります。

一方、前者の場合は、まずは早々に面談の機会を設けてヒアリングをしましょう。
もし、何かしら不満があり、仕事への意欲を失っているなら、まずはそのスタッフの不満の根源に何があるのか話を聞き改善策を講じるなど、速やかに建設的な対応を行うよう心がけます。また、退職を決めてしまっている場合には、退職時期を明確にして公表するなどの対応が必要になります。周囲のスタッフが「あの人は手を抜いているが許されている」と判断すると、モチベーションや業務効率に影響を及ぼす危険性があるため出来るだけ迅速な対応を心がけましょう。

サイン3:勤務時間が短くなり、休みがちになる

これは医療業界にとどまらず、一般企業でもよくあることですが、やはり「来ない…」というのは退職・転職を考えている際によく起きる現象です。特に、有給を消化しがちになるのは転職準備の可能性も高いので、勤務表などは定期的にチェックするようにしましょう。

もちろん、「資格を取るために学校へ通う」場合なども勤務時間に変更がでますし、趣味の時間や家族との時間を確保するための場合もあるので、さりげなくヒアリングをするようにしましょう。

サイン4:不平・不満を言わなくなった

「不平・不満」を言うことも離職の兆候になる可能性はあるのですが、不平や不満を言ってくれている間は改善できる可能性も大いにあります。しかしながら、今まで面談の場や現場で不平・不満を漏らしていた人が、急に静かになったら、

      • 不平不満の原因が解消された
      • 諦めて転職・退職することにした

という場合がほとんどです。言わずもがなですが、後者の場合は早急に手を打たなければ手遅れになる可能性が高くなります。基本的には、不平不満が表面化している間に適切な対応を取ることが望まれますが、不平不満を口にしていたスタッフが何も言わなくなったらもう猶予はありません。その意味では、不平不満が出てくることより、出ていた不平不満が出てこなくなることの方が怖いとも言えるでしょう。

特に、「不満→退職」という流れは、他の診療所に転職した際やスタッフ仲間への負の口コミが発生する可能性が高く、新規雇用や他のスタッフのモチベーションダウンにもつながりやすくなりますので注意が必要です。

しっかりとコミュニケーションを図る仕組みを設けること

スタッフの離職”は、冒頭でも述べたとおり、診療所経営の大きな課題のひとつであり、適切に対応することが診療所経営の安定にもつながります。「スタッフ退職の代表的な4つのサイン」を紹介しましたが、こうしたサインにいち早く気づくためには、たとえば1ヶ月に一度は各スタッフとの面接の時間を設ける、普段から意識的にスタッフとの雑談の時間を確保し気になることがないかを聞くようにする等、これらのサインを察知できるような基盤を築いておくことが重要です。こうした基盤を築いておくことで、離職のサインに気付きやすくなるだけでなく、不安や不満がある場合にスタッフに相談してもらいやすくなり、離職率を低下させることも期待できます。また、たとえスタッフの離職をとめることができなくても、早い段階で別のスタッフが兆候に気づいて相談してくれるなど、早い段階で離職の意志を把握し、策を講じることができるようになります。

【2】スタッフが辞めない診療所の作り方とは…?

スタッフが定着している診療所と、スタッフが始終入れ替わっている診療所とがあります。
患者さんの目から見ても、診療所にとっても、スタッフが始終入れ替わるということは、決して良いことではありません。スタッフがすぐに辞めて入れ替わるということは、そこになんらかの問題点があるはずです。
何が問題となっているのか、院長はしっかりと考えておられるでしょうか…?

診療所の場合、給料その他の労働条件については、それほど大きな違いがあるわけではないので、そのことが原因で人が沢山辞めていくというケースは少ないです。

辞めていく理由の一番は、院長とスタッフとのコミニューケーション不足ということが考えられます。
「一生懸命働いているのに、院長からは評価されていない…」と考え、注意されたのをきっかけにやめてしまうというパターンです。

・イライラして、スタッフに八つ当たりをしていないでしょうか…?
・きちんと言葉にして感謝を伝えているでしょうか…?
・問題があるのは、自分ではないのかと認識なさっておられるでしょうか…?

私は、毎日3分でも5分でも、一人一人と話をすることと、月に一度、スタッフ全員と30分くらいの個別面談を行い、スタッフが考えていることに耳を傾け、自分が考えていることを伝える機会を作ることをお勧めしています。そして院長は、自分にきちんとフィードバックをもたらしてくれる“コーチ”をつけることです。

院長には、皆何も文句が言えず、それが結果として黙って辞めるということになります。診療所の中に、
コミュニケーションを専門とした人」を入れ、スタッフの声を吸い上げる仕組みを作るのです。

それには、恐縮ですが、開業コンサルタントや税理士・社労士といった職業の方々では請け負えない役割です。
それはコーチの仕事です。また、診療所全体としての共通の目標を作り、理念を掲げることです。スタッフ自体がそのために何をしたらいいのかと自発的に考えるようになり仕事に対するモチベーションが上がり、その結果仕事が楽しくなっていくという良い循環が生まれて来ます。

「対話に溢れた、活き活きと明るく楽しい職場作り…」 これが、“スタッフ定着のキーワード”です。

【3】何故かスタッフが次々と辞める診療所の特徴

◆はじめに…

看護師や医療事務など、スタッフが次から次へと辞めていく…。どの業界でも人員確保に悩んでいますが、診療所も例外ではなく、かなり頭の痛い問題です。

なかにはスタッフ全員から退職届が出されてしまった…。
そんなことになる診療所もあります。この様に、スタッフが相次いて辞め、人がコロコロと入れ替わる診療所には、どんな様な特徴があるのか私のコンサル経験から得たものを紹介します。

1.診療所内の雰囲気が悪くなっている…!

スタッフが辞める診療所は、とにかく院内の雰囲気が悪くなっていることがほとんどです。例え、院長とスタッフ間、またはスタッフ同士で会話がなくなっていたり、スタッフ全員の笑顔が消えていたり、この様な診療所の雰囲気が目に見えて悪くなっているということは、何人かのスタッフが不満を持っている可能性が高いです。つまり、大量離職や、相次いでスタッフが辞めるということになりかねません。

院内で1人だけ「どうも自分はこの診療所に合わない…」と思っているだけであれば、そこまで雰囲気は悪くなりません。他のスタッフの雰囲気は良いのであれば、その辞めたいスタッフも良い影響受けてやる気が戻る可能性もあります。しかし、診療所の雰囲気が悪くなっているのであれば、話は逆です。

むしろ診療所に不満を持って辞めたいと考えているスタッフが多ければやりがいを持って働いているスタッフにも悪影響を与えます。雰囲気が悪ければ小さなすれ違いが診療所全体の不満を募らせることになります。さらに診療所内の雰囲気が悪くなり、結果として大量離職に繋がってしまいます。スタッフの離職は、もちろん大きな損失をもたらします。

また、診療所内の雰囲気が悪いということは、少なくともスタッフのストレスが過大になっています。

・診療所で働くのが全然楽しくない…
・毎朝起きると憂鬱だ…

このようなうつ病寸前の状態ですから、当然仕事のパフォーマンスも劇的に悪くなります。それが1人や2人ではないわけですから、当然、診療所の経営にも悪影響を及ぼします。ですから、診療所内の雰囲気が悪いということは、かなり赤信号と言えます。

2.院長やスタッフが感情的に怒る診療所

次から次へとスタッフが辞める診療所内の雰囲気が悪い原因はいろいろありますが、まずはコミュニケーションです。巷では、多くのコミュニケーションや人間関係の本がありますが、実際に活用できている人はどのくらいでしょうか…? おそらくほとんどいないのではないでしょうか…?
これはなぜかというと、人間は感情で動く生き物であり、感情をコントロールすることはかなり難しいためです。

人間関係やコミュニケーションの本に書いてあることはわかってはいるけれど、つい感情的になってしまう。
感情を客観的に俯瞰し、思考と行動を変えることはかなり難しいことです。ですから、日常の職場では、何かの拍子で日常的に院長やスタッフが感情的に怒ることになるのです。

人間は感情に流されやすいですから、なかなかこの怒る習慣を止めることはできません。
もちろん、感情的に怒らないなんて無理だよ…!なんてことを言いたいわけではありません。この状態が続くと、当然、診療所内の雰囲気はピリピリしたものになり、ミスしてはいけない雰囲気になります。
院長やスタッフの顔色を伺って仕事をするわけですから、スタッフの自主性が育つどころの話ではありません。
そんな診療所で働きたいなんて思う人は、まずいません。誰か1人でも感情的に怒る人がいれば、次から次へとスタッフが辞めることになりかねません。

3.患者さんの前でスタッフに怒る

感情的に怒るケースで、さらに最悪なのが、患者さんの目の前で怒鳴り散らす院長やスタッフがいることです。
人の見えないところで怒るならまだ良いほうです。しかし、患者さんや他のスタッフの目の前で怒るのは、公開処刑と一緒で、相手に耐え難い屈辱を与えることになります。この様なスタッフへの接し方で、スタッフがどんどん辞めてしまい、診療所経営が成り立たなくなるケースは結構多いです。また、感情的に怒っているところを見せられた患者さんも当然気分を害します。スタッフが辞めると同時に、患者さんも失うことになります。
そして悪い噂が広がり、患者さんは来ない…、スタッフの新たな採用もできない…で、どうすることもできなくなってしまいます。

4.診療所内のコミュニケーションの問題とは…?

この様に、院長やスタッフが感情的に怒り、ピリピリした空気になってしまうと、どうしても大量離職が起こります。もちろん、“どうしようもない問題スタッフ”であれば「退職勧奨」も必要です。
辞めさせたいスタッフを退職に導くのも、推奨はしませんが時には必要なこともあるかもしれません。
しかし、そうではなく、

「本当はやることはやってくれる…」
「仕事は遅いけど、患者への対応が丁寧…」

など、そういう人まで辞めさせたいのでしょうか…?
診療所の経営に悪影響を及ぼす、辞めさせたいスタッフが辞めていくなら仕方ありません。
しかし、問題なのは“辞めさせたくないスタッフまで辞めてしまう”ことです。辞めさせたくないスタッフということは、院長自身も、本当は信頼しているスタッフではないでしょうか…?
しかし、信頼している、うちの診療所でこれからも働いてほしいことが態度として表れているかどうかは別問題です。その場合、ちょっとしたコミュニケーションで改善の余地があります。
もし、スタッフのやる気が持たない、良いスタッフまで辞めてしまうということであれば、コミュニケーションを見直す必要があります。もしかして、

「なんでこんなこともできないんだ…!」
「言ったのに、なんでやらないんだ…!」

という態度でスタッフに接していないでしょうか…?

この様に、各々の“スタッフのできないことにフォーカス”してしまうと、スタッフのやる気は一気になくなります。例え、良かれと思ってアドバイスしているつもりでも、悪影響を及ぼします。
スタッフ各々、役割がありますから「こうしてほしい…」という気持ちが院長にはあるかもしれません。
しかし、「これはできているな…」「あの看護師((医療事務)(受付) のこういうところが良いな…」と思うことはないでしょうか…?
辞めてほしくないスタッフですから、1つか2つは、そのような要素があるのではないでしょうか…?
であれば、「できないこと」にフォーカスするのではなく、「できること」にフォーカスしたらどうでしょうか。

日常の仕事で、スタッフのやる気を引き出せるタイミングというものがあります。
それをみすみす見逃してしまうのはとてももったいないことです。
それは何かと言うと、「スタッフの仕事がうまくいった瞬間」です。
成功体験と言い換えても良いかもしれません。しかし、多くの場合、スタッフ自身、仕事がうまくいったことに気付いていません。仕事を“テキパキ”と進めたり、患者さんの対応が丁寧、結果患者さんが喜んでくれたとか、これも成功体験です。院長の診療がスムーズに進んだ、ということもあるかもしれません。

ただ、多くのスタッフは、これが「当たり前」と思ってくれるのです。これが当たり前ではなく、「助かった」ということを口で言ったり、態度で示さないとスタッフは気付きません。
ですから、何かうまくいったことがあれば褒めるのです。
「褒めることが大事…!」とはよく言われていますが、ただ褒めればいいというわけではありません。
このうまくいった瞬間に、褒めることが大事です。そうすることで、スタッフのモチベーションは上がります。
このちょっとしたコミュニケーションの違いが、スタッフのやる気に大きな差を生みます。

結果として、スタッフが長く働いてくれる診療所になってくれるのです。
もうひとつ、「次から次へとスタッフが辞めていく診療所の問題点」があります。
それは院長 ~ スタッフ、もしくは、スタッフ間の接触頻度が少ないということです。

5.院長がスタッフと面談をしていない…!

もうひとつ、次から次へとスタッフが辞めていく診療所の問題点があります。
それは院長 ~ スタッフ、もしくはスタッフ間の接触頻度が少ないということです。
ある“内科診療所の事例”です。その内科診療所は、看護師や医療事務・受付、放射線技師、コンシェルジュなど、多くのスタッフを抱えていますが、みんな楽しそうに働いています。その内科診療所の院長が徹底して行っているのがスタッフとの面談です。いくら院長が診療で忙しくても、月に1回、30分のスタッフとの面談を欠かしていないそうです。多くのスタッフを抱えているのに、ひとりひとりとしっかり時間を作るのです。面談することで、何が良いかと言うと、各スタッフの声にならない声を聞くことができるからです。なかなか、日常会話で、スタッフは悩みや不満を打ち明けてくれません。そして自分の中にネガティブな感情をためこみ、まるで時限爆弾のように爆発させるのです。そして、急に辞めてしまう…。このようなことを防ぐには、院長は聞き役に回り、スタッフの本当の声を聞くことが大切です。その機会が面談なのです。この様に、スタッフの声を聞く時間を設けないと表面的な問題しか見えず、本質的な解決策はわかりません。

「残業を減らしてほしい…」の背後には、家庭の事情があるかもしれません。
「時給を上げてほしい…」の背後には、仕事に対する評価が適正かどうか疑っているかもしれません。

こうした声にならない声を引き出すには、面談を行うのは良い手段と思われます。

6.すぐ辞めるスタッフを採用している診療所

これまでは、日常的なスタッフとの関わり方について解説しました。
しかし、この関わり方以前の問題があります。
それが、そもそもすぐに辞めるスタッフを採用しているというパターンです。
つまりスタッフ採用に改善の余地があるということです。もし、院長が、面接時に、給与や福利厚生から詳しく説明しているようであれば、採用したスタッフはすぐ辞める可能性が高いです。お金で入ってきたスタッフは、基本的に定着しません。

話は変わりますが、院長の診療所には「経営理念」はあるでしょうか…?
そして、その経営理念は表面的なものではなく、診療所全体に浸透しているでしょうか…?
そうでなければ、おそらくスタッフを採用しても、結局次から次へと辞めるでしょう。
理念に共感できないスタッフは基本的に長続きしないからです。
ですから、採用の面接時に、詳しく説明することは給与・福利厚生よりも「理念」です。
理念というときれいごとに見えるかもしれませんが、理念に共感できるかどうかが、じつはスタッフとの関係でもっとも大事なポイントです。

多くの自己啓発書に書いてあるように、理念やビジョンは、経営の土台になります。理念が確立していないと、コミュニケーションを見直しても、人事評価を見直しても、時給を上げても離職問題の解決は難しいでしょう。
理念がなければ、目の前の感情に本能的に動かされ、結局、患者さんの目の前で怒鳴り散らすようなことになるからです。とはいえ、ブレない理念を確立し、浸透させている診療所は非常に少ないでしょう。
それだけ簡単な問題ではないのですが、それができるだけで、長続きする辞めないスタッフを採用できます。
しかもモチベーションの高いスタッフが次から次へと入ってくるので、診療所の雰囲気も良くなるでしょう。

7.最後に・・・

次から次へとスタッフが辞める診療所の特徴について解説しました。(私の経験上からレポートしました)

★診療所の雰囲気が悪い…
★院長やスタッフが感情的に怒る…
★しかも患者さんや他のスタッフがいる前で怒鳴る…
★スタッフに対して否定的な関わり方をしている…
★スタッフに対して面談を全然していない…
★そもそもすぐ辞めるスタッフを採用している…

もし、当てはまることがあれば、診療所の経営に大きく関わることです。
また、院長やスタッフのストレス管理にも大きく影響することです。
診療所の経営だけでなく、楽しく働けるように、是非、少しずつ実践して頂ければ幸いです。

【4】退職の波を食い止めろ…! 院長が行うべき「スタッフ不満解消法」とは

少数精鋭で運営している診療所にとって、退職者が出ることは歓迎されません。
人数の減少で運営が厳しくなったり、院内の雰囲気が変わったりすることで、さらなる退職者が出てしまう可能性も考えられます。特に診療所の院長は、残ったスタッフの不満を解消しながらの運営が求められます。

退職者の弊害

例えば医療事務3人で運営していた診療所があったとします。そのうちの1人が退職をしてしまい、募集しているもの、なかなか応募が来ません。この時、残ってくれる2人の医療事務スタッフは、単純に計算しても、1人につき6分の1仕事が増えるわけですから、スタッフとしても歓迎できる状況ではありません。

対策が「募集を出している」のみでは足りない

院長と医療事務スタッフが、どの程度の信頼関係で結ばれているかで多少変わりますが、「募集はかけているが応募が来ない…」という状況を、「仕方ないこと…」で片付けてしまっていると、その期間が長くなるほどにスタッフの不満がたまります。

一時的に給料を上げるのはどうか

募集人数が1名では、捻出できる経費にも限界があることから、募集の窓口を増やす方法は慎重にならなければなりませんが、それを理解できるスタッフばかりではないでしょう。
「それならば新人が入社するまで、一時的に(少額の)手当を給付しよう…」
とお考えの院長もいると思います。1つの方法ではありますが、行う場合は支給額を少額にしておくことをお勧めします。(目安は多くても1万円です。)不満が出ていると、人数が少ない時くらい少し手当を出してもとお考えになるかもしれませんが、新人が入った際に、給料を元に戻すことで新たな不満が噴出する可能性があります。

給料を上げる以外の対策

前述のように、短絡的に苦労をかけるから給料をアップすると、目の前の問題は解消できても、その場しのぎの対策でしかありません。そのため、給料以外の方法で不満を解消する必要があります。

スタッフを食事に連れて行く

スタッフと食事をすること自体は、診療所の院長であれば年に数回は、やられていると思いますが、多くの場合やり方が思わしくありません。お支払いは院長が行われるのですから、院長の自由と言えばその通りなのですが、下記の項目に1つでも当てはまると、良い成果は得られないのではないかと予測します。

・参加を強制にしている
・独演会をしている
・特定のスタッフだけを連れていく
・必要以上に高い店を選んでいる

強制参加にしている

せっかく食事会を開き、そこでコミュニケーションを開くのですから、スタッフ全員に参加してほしい…という考えは当然ですが、特に最近の考え方では、「プライベートな時間を大切にしたい…」という価値観があることを忘れてはいけません。院長にとって、身を削りながら築いてきた城であることを理解できるスタッフは多くありません。(そのようなスタッフを育てていかなくては安定しないのですが…)

もしスタッフ全員に参加して欲しいと考えているのであれば、安易に強制参加とするのではなく、食事会を行う目的と、候補日を明らかにし、参加を前向きに検討してもらうようにすべきです。

独演会をしている

食事会と称しての“ミーティング”になってしまっていると、食事会を開くたびにスタッフから不評をかいます。

特に院長が話している時間が長いほど、普段行うミーティングと大差なくなってしまうので、食事会の意味がありません。食事会で「大変だけどみんなで頑張ってほしい…!」と伝えたいのであれば、1人1人と話しながら、“仕事の話”と“プライベートの話”の比率を注意しましょう。
食事会であっても仕事の話ばかりでは息が詰まると考えるスタッフは意外に多いのです。

特定のスタッフだけを連れていく

“お気に入りのスタッフ”とクローズの「ランチミーティング」や「ディナーミーティング」を行っている院長もいます。何のトラブルもない時は、指示系統がはっきりして効率が良いかもしれませんが、退職者が出ているしわ寄せは全員に来ているので、特定のスタッフだけで食事会を行うことが不評を招きスタッフ同士の溝を広げかねません。
「秘密にしているから大丈夫」なのかもしれませんが、秘密ではなくなったときのリスクを考えるべきでしょう。

必要以上に高い店を選んでいる

このような時は「スタッフが普段いけないようなお店で…」という選択はあまりお勧めしません。
普段いけないような高価なお店の方が、スタッフは感動するかもしれませんが、意見を集めるには向きません。
食事会の本来の目的である「大変だけど診療所のために頑張ろう!」という想いを共有しにくい環境といえます。スタッフの収入では、普段行けないような高いお店を選ばれるときは、実績を出したご褒美というコンセプトがよろしいのではないでしょうか。

スタッフ全員と面談を行う

食事会と並んでメジャーな方法かもしれませんが、スタッフ1人1人と面談をする方法もあります。
現状の診療所に対する不満をリサーチしながら、より良い環境を作っていくためだということを広く伝えれば、スタッフも協力してくれることでしょう。

院長が行う場合は要注意

ただし、院長と1対1で面談を行われる場合は注意が必要です。忌憚のない意見を求めても、スタッフが緊張したり、気を使ったりして、現状を正しくリサーチできないケースもあります。

別の管理者を同席させる

診療所の場合、医療事務・看護師それぞれのリーダー職の方が同席するのが1番良いと思いますが、
“院長と1対1にならないような工夫”をされてはいかがでしょうか。管理者との面談は1対1でも問題ありませんが、“入職してからまだ日が浅いスタッフ”にとっては、院長と1対1で話すのは負担になることを意識してあげてください。

匿名性を担保する

せっかく面談でリアルタイムな情報を得ることができても、情報の出所が明らかになってしまうようでは、大きく信頼を失ってしまいます。「大した情報ではない」と思っても、匿名性を保って信頼を得ることが、今後の診療所運営にも大きく影響します。

残業を出す

院長が面談を行う場合は、おのずと診療後の時間になります。
通常面談は15分から30分程度で行われますので、協力してくれたお礼を渡したり、残業代を出すなどして、面談を行ったこと自体に不満を持たれないようにする気配りも必要です。

【5】複数スタッフが同時に退職したいと申し出があった場合の対応

診療所は元々スタッフの人数が少ないところに、一度に二人も退職したいとの申し出があった場合、本当に困ります。このままでは実務が回らなくなってしまいます。では、どのように対応したらいいのか…?

慌てずにヒアリング、改善案提示、個別面談で対応

スタッフとの問題で悩むと毎日の診察までが辛くなってしまいます。患者さんの悩みやお金の悩みは長続きしませんが、スタッフの悩みはその方が退職するまでずっと続くのです。悩みの種となっていたスタッフが退職したいと申し出てくれた時には、ほっとするどころか、もっと困った状態になってしまうことが少なくありません。実は、しばしば起こりうるのですが、2~3人同時に退職したいと申し出られることです。ギリギリで運営している診療所のスタッフ数です。一度に複数人辞められてしまうと、業務が成り立たなくなってしまいます。このようなことが起きてしまった場合の対応方法を紹介します。

≪ポイント≫

(1)個別にじっくり話を聞く

決して批判したり、途中で口を挟んだりせずに、「本当にそうだったね…」「それは大変だったね…」と肯定的に話を聞くことが大切です。おそらく反論したくなったり、否定したりしたくなると思いますが、じっと我慢して聞き役に徹してください。それまで溜まっていた不満を院長に聞いてもらい、同意してもらえるだけでスタッフも落ち着く場合があります。

(2)こちらができる改善案を伝える

給料のこと、残業のこと、有給休暇のことなどを具体的に話をする。全面的に希望を受け入れることはできなくても、新規に求人する場合の費用や時間の無駄を考えれば、妥協点が見出せます。スタッフには、診療所の現状を説明し、診療所ができる改善案を伝えましょう。

(3)期間を定めて慰留する

本当に辞めたいと思っている人以外は、引きずられて「私も…」と言い出すことが多く、その人に「どうしても私達と一緒に働き続けてもらえませんか…? あなたがいてくれるからこの診療所が回っているのです。
もし、どうしても…ということであれば、せめて新しい人が入って一人前になるまで残ってくれませんか…?」
とお願いします。これで本当に辞めたい一人は退職するかもしれませんが、他の人は残ってくれることが多いと思います。

一番重要なポイントは、なぜ同時に退職したいと思ったのかその原因を院長自らが聞きだし、根本原因の除去に努めることです。その姿勢がスタッフに伝われば、退職の気持ちも変わることと思います。

【6】問題のあるスタッフに上手に退職をすすめるには

勤務態度などが悪く、注意してもなかなか改善しないスタッフを辞めさせるかどうか。一度は考えたことがあるのではないでしょうか。今回は実際にスタッフに辞めてもらう場合の方法と注意点についてお話します。

「解雇」と「退職勧奨による自主退職」

スタッフの退職には、「解雇」「退職勧奨による自主退職」の2つがあります。

解雇

診療所側から一方的に労働契約を解除します。解雇された事をスタッフが納得できずに、労働基準監督署に駆け込むケースもあり、対応を誤ると訴訟に発展するケースも考えられます。

退職勧奨による自主退職

本人の同意による退職が前提となるため、トラブルになるリスクは「解雇」に比べると低いと言えます。辞めさせたいスタッフがいる場合、できるだけ退職勧奨に持っていくようにし、当人が納得のいく上で、自ら辞めてもらうようにするのが得策です。

トラブル防止のための事前策

退職に関するトラブルを防止するためには、解雇の禁止事由などを定めた労働基準法などの法令を遵守することが大切です。
しかし診療所など医療機関で実際トラブルとなるのは、スタッフに対する不適切な説明といったような、法令違反とは異なる原因が多くみられます。

ここからは、解雇や退職勧奨をスムーズに行うためのポイントをご紹介しましょう。

試用期間の活用(試用期間中にスタッフの資質を見極める)

診療所などの医療機関では、業務能力・協調性・コミュニケーション能力など院長や管理者が求める人材像が不明確な場合が珍しくありません。そのため、試用期間中に適格な判断を下すことができず、また問題点を見抜くことができずに、本採用後に苦労するケースが多くあります。求める人材像を明確にし、定期的に能力やスキルをチェックして適宜指導し、改善するかどうかを見極める手法を確立すべきでしょう。また、試用期間中において「不適格」と判断し不採用とする場合、その手続きは法的には解雇に相当することを肝に銘じておくことが大切です。判断基準としては、「勤務態度」「能力」「勤務成績」「協調性」「コミュニケーション能力」などが挙げられます。また基準に達しているかどうかを、なんとなくの目安ではなくきちんとした基準を作り評価できるようにしておくことも大切です。

本人に問題点を自覚させる

まずは問題行為を分析しましょう。指導の際に感情的にならずに、何が問題でそれにより診療所にどんな影響があるのかなど客観的な事実を整理できるようにして、正しく伝えましょう。普段からこまめに指導して問題点を自覚させ、「このままでは辞めさせられるかもしれない…」と心の準備をさせておくことが必要です。本人が問題点を充分に自覚していれば、「納得いかない」と反発してトラブルになる可能性は低くなります

問題行為を記録しておく

解雇や退職勧奨をする段階になった時、指導内容や改善の度合いなどの記録(問題点の根拠)に基づいて説明するために問題行為を記録しておきます。日々の指導事項等をノートに書き溜めておくことも有効です。問題行為を繰り返した時などは、始末書を取ることも有効でしょう。就業規則などに始末書のルールを規定する場合、懲戒処分のうち最も軽い「戒告」などの処分に該当するので、処分の対象となる行為を具体的に規定しておく必要があります。

伝え方の工夫(無用な反発を招かないように伝える)

「伝え方の工夫」については、一方的な否定になってしまわないようにすることが必要です。
「頑張ってくれたが……」
「職業意識が高いことは認めるが……」
といった前置きなどを入れ、スタッフの仕事に対して認めている部分があることを先に示してから本題に入るようにしましょう。

条件面で有利に取り計らう

退職時に条件面で有利に取り計らうということは、退職勧奨をスムーズに進めるために一般企業では良く取られる手法です。退職金に一定額を上乗せして支払ったり、消化しきれなかった有給休暇を買い取るなどの方法を取り、スタッフ側に有利な条件を提示して退職をしてもらいます。但し、一度特例を設けるとそれが前例となってしまいますので、過度に条件を有利にしない方が良いでしょう。労働基準法上の解雇の場合は、「少なくとも30日前に予告するか、平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払う」ことが規定されているので、それに準じて処理を行いましょう。

診療所側からの退職は、他のスタッフにも影響を与えることがあります。退職に至るまでの理由にもよりますが、院長や事務長が悪者にならないように、また、診療所内にわだかまりが残らないようにすることもとても大切です。また、人数が減った際の仕事の分担なども事前に把握し、よくスタッフの方とも相談しましょう。あくまで今後より良い経営を行っていくための退職ですので、慎重に進めて下さい。

医業経営支援・売り上げアップコーチングオフィス OFPコンサルタント合同会社 代表社員 大山隆男

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