院長の困りごと 3

慢性疾患の患者さんがもっともっと来院してほしい・・・!

【1】慢性疾患患者の集患・増患策

急性疾患よりも生活習慣病などの慢性疾患の方が診療報酬上の点数が高いのはご承知のここと思います。
内科の場合は特にその傾向が強いのですが、慢性疾患の患者さんの数が多いか少ないかにより経営上大きな差が出ます。
つまり慢性疾患の患者さんを集めることが重要な経営課題になるのです。
しかし、言うは安しで、慢性疾患の患者を集めるのに苦労している診療所が多いのも事実です。
慢性疾患の患者さんを集める方法はたくさんありますが、比較的実践しやすい方法を紹介します。

まず慢性疾患の患者さんがどのようにして受診するに至ったのかをまとめると、

・知り合いからの紹介
・住まいが近くなので転院した
・通院している診療所が休診の為、臨時的に薬を処方してほしくて来院したがそのまま通院することになった
・産業医からの紹介
・地域活動を通じて
・別の疾患で通院して慢性疾患の診療に至った
・ホームページを閲覧して
・特定健診や健康診断などをきっかけとして
・介護施設からの依頼など
・近隣の病院からの紹介等で

少し考えただけでもたくさん出てきます。例を挙げるとキリがありませんのでこのくらいにします。
比較的容易で効果が出やすいものもありますので、順次、案内します。

慢性疾患の集患・増患  高齢者に好かれる“診療所”とは…?
「慢性疾患をもっている可能性が高い人は…?」と考えれば答えのひとつとして「高齢者」が思い浮かびます。
私(大山)が、「慢性疾患の集患」をコンサルティングをする場合、まず最初にすることは「高齢者」への対策です。
高齢者の受診動向について医療機関の現役スタッフに聞くと、特に外来診療を受診する患者さんの殆どは、

「やさしい先生だと知人に聞いて…」
「なんらかの理由でたまたま受診していい先生だったのでそのまま通院している…」
「家の近くだから…」
という理由が圧倒的に多いそうです。

2番目の「なんらかの理由」とは、いつも受診している“診療所”が休診日で処方箋がほしくて来院した、特定健診など健康診断という理由で来院したのがきっかけで受診始めたなどがあります。特に1番目と2番目の受診理由が興味深いと思います。

なんらかのきっかけで来院した
    ↓
診療所を気に入る
    ↓
受診するようになった
という流れになります。「気に入る…」という引き金がいかに作り出せるかということがポイントになります。

つまり対策の一つは受診してくれた「高齢者に好かれる」ことです。私の子供が札幌市内の大学病院に受診に行った時に、待合室や喫煙所(昔は院内にあったのです)や患者さんが集ってくるベンチ等で、患者さんたちがどんな話をしているのか、どんな不満を持っているのを知るために、こっそり盗み聞きしたことがあります。そこで非常に興味深い結果が得られました。

それは、「ドクターの対応や態度についての悪口が大部分である…」
また、好意的な話については、「ドクターがやさしい、丁寧などの対応や態度についての評価が大部分である…」ということでした。
現役世代(現在働いている世代)となるともう少し別の不満も多く出てくるのですが、特に高齢者にこの傾向が顕著で、ドクターの対応や態度にはきびしいチェックをしていました。つまり、逆を言うと高齢者に好かれる方法は、
「やさしく、丁寧に対応すること…」
ということになります。本題に戻りますが、高齢者を集患する為のベースは「高齢者に好かれる…」ということです。
「やさしく丁寧に対応する…」とは、どういうことなのかは感覚的にわかるのですが、具体的に何をすればいいのかと言われると困惑するドクターがいます。そこで私は、患者さんに人気のあるドクターを分析し、どの様にすれば患者さんから好感が持たれやすいのかをまとめました。特に効果が出やすいものをご紹介します。要点を先に申し上げますと、
(1)患者さんの気持ちをとらえる話し方
(2)患者さんの主訴をよく聞く。聞いている最中には絶対に電子カルテを操作しない。
(3)聴診器をあてる、診察ベッドで触診するなど患者さんに対して「よく診ているアピール」をする。
(4)カルテには雑談のメモを残す
(5)患者さんを連れてくる(介助する)家族への配慮を怠らない
ということとプラスαです。

(1)患者の気持ちをとらえる話し方

ドクターにお聞きすると皆さんが「患者さんとうまく接している」とおっしゃるのですが、患者さん好感を持たれるまでに対応できている方はとても少ないと思います。
「患者さんに人気のあるドクター」の患者さんとのやりとりをみるとわかりやすいのでご紹介します。
先生:診察室のドアをドクターが開けて、「○○さん」と患者さんを呼び込む。
患者:「よろしくお願いします…」
先生:「お待たせして申し訳ないですね!だいぶ待ったでしょう…」
患者:「今日も混んでるね…!」
先生:「おうちが遠いのに来てくれてありがとう…」「そういえば6年生のお孫さんのサッカーの試合はどうだったの…?」
患者:「先生、よく覚えていたね。それがね、惜しくも1点差で負けちゃったのよ…」
先生:「残念だったね~。今度は勝てるといいね…」
(診察がはじまる)「具合と経過はどうですか…」

「ちょっと胸の音を聞かせてね… うん、大丈夫だね。お薬飲めてる…?」
患者:「ちゃんと飲んでますよ…」
先生:「○○さんはがんばってるね…!」

ドアを開けて出迎えることや待たせたことへのお詫び、ちゃんと計画的に受診してくれていることへの労い、プライベートなこともわすれていないという気持ちを表すこと、そして治療を頑張っていることを褒めること。

この会話はほんの1、2分ですが、その中に患者さんの気持ちをとらえる為の会話術がちりばめられています。

「労いや褒めること…」
「あなたのことをよく覚えていますというメッセージ…」
これが要点です。また、こんなやり取りもあります。次は良くない対応と患者さんに好かれる対応の比較をしてみましょう。

まず、良くない対応から。診察中に、喉が膿んでいる状況を見て、
先生:「なんで、こんなになるまで放置したの…! もう一歩で入院するところだったよ…!」
患者:「すみません…」

よくあるやり取りですが、この患者さんは二度と受診することはありませんでした。
医師として、今後はこんなひどい状況にさせまいと思ってお説教のつもりで言ったのでしょうが、患者さんは不愉快以外の何物でもなかったのでしょう。
次に、患者さん人気のドクターの対応です。先ほどと同じ状況で、
先生:「あー、よく我慢しましたね…!これは辛いね~」「次は、もう少しひどくなる前に受診して下さいね。ご自分が辛いから…」
「でも、よく我慢しました。すぐに治療しましょう…」
患者さんにとっては「よく我慢した」という言葉で、ドクターに不愉快な感情は持たないですし、放置したにもかかわらず、
「我慢した」と一定の評価をされたわけですから悪い気はしないわけです。
辛いのは患者さんなのですから、決して説教をするのではなく、労いが必要なのです。
また、他にも足の悪い患者さんには「大丈夫…? ゆっくりでいいよ。」などやさしい言葉をかけるのも非常に効果的です。
そして大事なのは「無表情、ぶっきらぼう」はよろしくなく、コツは子供に接するかのように「やさしい言葉使いとやさしい眼差し」で対応することです。少々大袈裟でもよいくらいです。

(2)患者さんの主訴をよく聞く。聞いている最中には絶対に電子カルテを操作しない

「電子カルテの操作ばかりしていて患者を見ない…」という不満は多いです。紙のカルテを書いている最中にも目線が下を向いているものですが、なんとなくコンピューターに入力している姿は、自分を無視されているような錯覚を起こす様です。入力をすることに気を取られずに患者さんの主訴を「よく聞いているという姿勢をみせること…」を心がけることが大切です。

(3)聴診器をあてる、診察ベッドで触診するなど患者さんに対して「よく診ているアピール…」をする

医師が気が付かない患者さんから不満として多いのはこの「聴診器をあてることもしない」や「よく診てくれない」という不満です。
ドクターにすれば、医学的には不要であるということなのですが、患者さんは「よく診てもらった実感」がほしいのです。
ですので、聴診器をあてることや触診、または前述したように、よく患者さんの主訴を聞く姿勢を見せることです。

(4)カルテには雑談のメモを残す

前述の「ドクターと患者さんのやりとり」の際に「6年生のお孫さんのサッカーの試合」が出てきましたが、雑談の内容をカルテに残すのはコミュニケーションの技法として有効です。実は知り合いの美容師に聞いたのですが、美容師にもカルテがありカットやカラーの内容を記録するそうです。同時に顧客の雑談内容なども記載することで、次回の会話をスムーズに進めることができるのだそうです。これを医療に転用するのです。記載することは、患者さんが話をしたどんなことでもいいのです。
それを診察前に確認をして「会話」に織り交ぜるのです。患者さんからすれば、「自分のことを覚えていてくれた…!」と思うので「好かれる」可能性が高いのです。そしてこの行為が別の効果を生み出します。診療所の方に聞いて非常に納得した話なのですが、先ほどの雑談が「自分のことを覚えていてくれる…」という思いを生み、「次回○○日に来てね…」という約束をキチンと守ろうという心理になるようです。この方法を導入してしばらくすると転院や治療中止が減ります。

(5)患者さんを連れてくる(介助する)家族への配慮を怠らない

私(大山)がコンサルをする際に最も注意をするのが「患者さんの家族」です。特に体の不自由な患者さんの場合、受診する医療機関の決定権は、かなりの割合で送り迎えしてくれる家族にあります。その家族への配慮を怠れば転院の確率が高まります。
御家族に対して患者さんの状況を確認するのは当然ですが、「薬を飲ませやすいか…」「受診するにあたり不都合はないか…」
「要望はないか…」など家族の気持ちや要望を聞くこと、つまり御家族へ配慮している姿勢を見せることです。
また、さらに、高齢者を連れてくる御家族は中高年が多いので慢性疾患を持っていて他院に受診している可能性がありますので、「いっしょに薬を出しますよ…」と一言声をかけると家族も一緒に患者さんなることもよくあります。

(6)プラスα

高齢者を診療する上で“工夫”も必要です。
・朝の早い高齢者からの要望で8:00から診療を開始する
・小さな段差をなくすようにする
・車いすを数台常備する
・手すりを増やす
・スタッフが積極的に介助する
など、高齢者への配慮を常に考えることが大切です。さて、長くなりましたが、先ほど申し上げましたとおり、高齢者を集患するベースは、「高齢者に好かれる」ということです。
「直接的に患者を集める手法ではない…」と言われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、様々な医療機関のコンサルをして感じることは、安易に広告宣伝に頼っても根本的な解決にはならず一時的な患者増加にとどまり、やがて元の状態に戻ってしまいます。私(大山)が長年の間、診療所を見てきて、患者さんから人気があり経営の安定している診療所は「患者さんに人気のある体質」を持っていると断言できます。
そして、これには副産物もあります。数か月程度で「口コミ」が発生することが多いので、粘り強く対応するよいでしょう。

医業経営支援・売り上げアップコーチングオフィス OFPコンサルタント合同会社 代表社員 大山隆男

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