院長の困りごと 10

不満を解消させる“患者さん待ち時間対策”を早急に取り入れたい…

【1】ファンを増やすために待合室をもっと活用しよう

「既存患者さんに対するマーケティング」=「増患」について取り上げます。
待合室という患者さんとの絶好のコミュニケーションポイントを中心に考えていこうと思います。

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「1:5の法則」  「5:25の法則」

マーケティング用語に、1:5の法則5:25の法則という言葉があります。
「1:5の法則」というのは、同じ金額を払う顧客であっても新規顧客に販売するコストは、既存顧客に対する販売コストの5倍かかるという法則です。

一方、「5:25の法則」は、既存顧客に対して、顧客離れを5%改善できれば、利益率が最低でも25%は改善されるという法則。つまり、既存顧客の囲い込みは、中・長期的に見れば新規顧客の開拓より、はるかにコストが安く利益率が高いことを表しています。

この法則は、あくまでも一般企業における考え方ですが、医療機関にも共通する部分があります。
医業収入を増やそうとすると、新規患者さんの獲得に目が行きがちですが、長期的な視野で考えると、既存患者さんに対するマーケティングの方が実は重要なのです。

■ホームページを見る人 < 来院する人という事実
既存顧客のマーケティングと言ってもあまりピンとこないという方もいらっしゃるかもしれません。

実は、ホームページを見る人(=訪問者数)と来院患者数の平均値には大きな差はなく、来院患者数の方が若干上回るくらいであることがわかっています。そのため、ホームページにどんなに力を注いでいても、来院患者さんに対して何も手を打っていなければ、それは大きな機会損失以外の何物でもありません。

◆既存患者さんが貴院の何を知っているでしょうか…?
◎既存患者さんは再来院前にホームページを見直さない…
ホームページ上でしっかり情報提供はしているし、これ以上、既存患者さんに向けて何を伝えればいいのか…? と疑問に思われる院長もいらっしゃるでしょう。まずは、既存患者さんが再来院する際、わざわざホームページを見直さないということを認識してください。
図を見ていただければわかりますが、初診患者さんは約2人に1人がホームページを見て来院するのに対し、既存患者さんが再来院前にホームページを見る割合は3割にも及びません。

また、図のように、初診の際、医療機関をどのように探すかというと自分の症状を診てくれるという前提条件はありますが、通院のしやすさが圧倒的に重視されます。

そして、一度来院してみて大きな不満がなければ、わざわざ他の医療機関を探すことなく、二度三度と通院するというのが一般的な患者行動です。

何年も通っている患者さんは貴院の最新情報を知らない可能性が高い

既存患者さんが「ホームページ」をあまり見ないということを考えると、数年単位で通い続けてくれている貴院の患者さんは、例えば新しい検査機器の導入や、診療内容をどこまで理解しているでしょうか…?
既存患者さんであるから、貴院のことをよく知っているというのは思い込みに過ぎません。
既存患者さんが知っていることは、「診療科目」と、「医師や看護師」、「受付スタッフ」の雰囲気くらいと思った方がいいでしょう。

待合室で繰返しアナウンスしてファンを増やす

患者さんを増やすために大切なことは、“地域に貴院のファンを増やす”ことです。
野球ファンが「ひいきチーム」の事情をよく知っているのと同じように、貴院のファンとは、貴院をよく理解した上で通ってくれている患者さんのこと。ファンを増やすために大切なのは、まず貴院のことをよく知ってもらうこと。医師の専門領域や診療方針、どういったことを相談してもらいたいのか、さらに言えば、医師やスタッフの人柄まで、地道にアナウンスしていく、ということに尽きると思います。

地道にアナウンスをしていった結果、ファンになってくれた患者さんは、貴院にとって心強い存在になります。
ファンは、黙っていても貴院の良さ = ポジティブなクチコミを周囲に拡散してくれ、新たな患者さんを連れてきてくれます。ただ、難しいのは、人間は1回伝えただけでは、記憶に残らない生き物だということ。
strong>来院する度に、繰返し(地道に…! )、アナウンスしていくことが大切です。

待合室でのアナウンスにはデジタルサイネージが効果的です…!

個々の患者さんに対して考えると難しいですが、待合室という空間をアナウンスの場と捉えれば、多くの患者さんに繰り返しアナウンスすることが容易になります。最近では、そのためのツールとして、待合室サイネージを導入する医療機関が増えてきました。

待合室に大型のディスプレイ(テレビ)を設置して、地上波ではなく、医療機関独自のお知らせを放映するというものですが、少し前は、待ち時間のイライラ緩和や、地上波は放映したくないからという消極的な理由で導入する医療機関が多かったように思います。ここ数年で、既存患者さんに対する情報提供の場、ホームページと同様に広報ツールの1つとしてサイネージを活用するという意識に変わってきました。

手持ち無沙汰な待ち時間に自然と目に入り、相談しやすい環境に

待合室サイネージの良い点は、まず、自然と目に入る = 強制視認をさせられるということ。
貼り紙や冊子だと患者さんが見たい情報、見たくない情報と取捨選択しがちです。
一方、サイネージは、貴院がアナウンスしたい情報を、否応なしに見せることができます
二点目は、相談しやすい雰囲気づくりにつながるということ。
サイネージで放映される内容は、その医療機関が発信する情報として(ホームページと同じように)、患者さんに受け取ってもらえます。そのため、「この症状、自分に当てはまるな…この診療所で相談できるんだ…」と思わせることができます。サイネージを上手く活用することで、待合室が患者さんとのコミュニケーション空間に生まれ変わるのです。

設置場所・内容・更新頻度を意識した運用で、より効果的になる

待合室サイネージを上手に運用するポイントは3つ。
◎ディプレイの設置場所
◎放映内容
◎放映内容の更新頻度

設置場所

まず、設置場所は、待合室で自然と目に入る場所を考えます。待合室の椅子の正面にディスプレイを設置するのがいいでしょう。

放映内容

次に、放映内容。例えば、ピロリ菌検査をPRした事例では、検査名だけを伝えるのではなく、当てはまる症状や放置することのリスク、検査の流れや治療法まで、ストーリー化したコンテンツを放映したところ、相談数が伸びたという報告もあります。

更新頻度

最後に更新頻度ですが、定期的に通院する患者さんに「また同じ内容」と思わせないようにすることが重要です。
すべてを新しくする必要はなく、例えば休診のお知らせ等、鮮度のある情報を合間に放映するだけでも患者さんを飽きさせない工夫になります。ブログのような感覚で、簡単に更新できる仕組みが必要です。

デジタルサイネージのポイント まとめ…

◎「ホームページを見る人<来院する人」であるため、来院患者(既存患者)への情報提供は重要。
◎既存患者さんは、改めてホームページを見直す人が少なく、実は貴院のことをよく知らない。
◎増患には、貴院の情報を繰り返しアナウンスして、ファンを増やすことが近道。
◎ホームページを見ない既存患者さんへの情報提供には、「待合室サイネージ」が有効。

【2】待ち時間30分で顧客満足度15%減…!それらをカバーする診察後にスタッフがかける魔法の言葉とは…?

患者さんが医療に対して不満を持った理由を調査したところ、約半数の人が「待ち時間」と答えた、という調査結果があるほど、医療現場において「待ち時間の短縮」は患者さんの満足度をあげるためには重要です。
しかし実際には、どの診療所においても待ち時間は必ず発生してしまうものです。
そこで今回のカンファレンスでは、“待ち時間によるストレスを軽減させるための対策”をご紹介します。

今回のOFP経営レポートの中身

  • ・待ち時間を「伝える」だけでなく、その後の「フォロー」まで行う…
  • ・患者さんがこんなしぐさを見せ始めたら、スタッフ側からの声掛けを…
  • ・待ち時間が長ければ長いほど、診察後の対応が重要…!
  • ・30分に1回以上、スタッフが自ら待合室へ行ってみよう…
  • ・最後に・・・

待ち時間を「伝える」だけでなく、その後の「フォロー」まで行う…

待ち時間対策として、待ち時間があとどれくらいあるのかを受付や掲示板などで、患者さんに「伝える」という対策をしている
診療所は多いかと思います。しかし、それだけでは患者さんの満足度をあげることはできません。
患者さんの満足度を上げるためには、「伝える」とともにその後のフォローまで行うことが重要です。
このレポートでも説明しておりますが、待ち時間が30分を超えると、患者さんの満足度は15%と大きく低下してしまいます。そこで、患者さんの待ち時間が30分を超えてしまうと事前にわかっている場合には、その後のフォローを行うようにします。
フォローの内容としては、受付担当のスタッフが待合室で待っている患者さんの元へ行き、直接声かけを行います。この時に重要なのが「お待たせしてしまい、申しわけございません…」という謝罪と、「お加減はいかがですか…?」という“患者さんの体調を気遣う言葉を必ず添える”ことです。たとえば、患者さんに伝えた時間通りに案内が可能であると判断できる場合は、「お待たせしてしまい大変申しわけございません。あと〇分程でご案内できるかと思います。お待ちになっている間、お体の方はつらくなったりしませんでしたか…?」となります。この一言があるだけで、「患者さんを待たせていることに対しスタッフは、申しわけないと考えており、患者さんの状態を気にかけている…」という気持ちを伝えることができ、患者さんの「ここのスタッフは、いつまで患者を待たせるんだ…」という不満を軽減させることができます。

患者さんがこんなしぐさを見せ始めたら、スタッフ側からの声掛けを

待合室で待つ患者さん。本を読む、スマホを見る、付き添いの方と談笑するなど、様々な過ごし方をされているなかで、スタッフは常に「患者さんが待つことに対し、怒りや不安を感じていないか」を注意する必要があります。そこで一つの目安となるのが、以下のような患者さんのしぐさです。
【1】腕を組んでいる
【2】しきりに脚を組み替える
【3】腕時計や携帯の時計を気にしている
【4】診察室をじっと見つめ、患者さんの人数を
気にしている

これらの様子が見られた場合は、患者さんが待ちくたびれている、つまり退屈していることが考えられ、こうした「退屈」を解消することも待ち時間対策として重要です。患者さんが退屈してしまっていると感じた場合には、まず「お待たせしてしまい、申しわけございません」と謝罪したあと「お待ちになっている間、もしよろしければ最近入ったばかりの雑誌をお持ちしましょうか」と退屈を軽減させる方法をスタッフ側から提案します。たとえ提案した内容を断られてしまったとしても、患者さん側からすると、「退屈だということを察してくれるほど、ここのスタッフは患者さんのことをよく観察している…」という良い印象を持ってもらうことができます。

待ち時間が長ければ長いほど、診察後の対応が重要です…!

待ち時間が長くなればなるほど、診察が終了した時点で「患者さんの不満は解消された…!」と考えてしまいがちです。しかし、待ち時間が長ければ長いほど、むしろ「診察後の対応」が重要となります。待ち時間が長いということは、それだけ多くの患者さんが来院されていることを意味しています。そのため、患者さんは「先生もお忙しいから、あまりお時間を頂戴してはいけない」という思いから、医師へ直接聞きたかったことや質問ができないまま、診察が終了となってしまっていることも考えられるのです。

診察が終わり会計へと進む過程で、スタッフ側から「診察時に聞けなかったことや、先生に聞きたかったことはありませんか…?」と確認することが大切です。また、会計を担当するスタッフも、会計時には支払いなどのやりとりのほかに、患者さんをいたわる一言を追加する、ということもポイントです。
「今日は大変お待たせしてしまい、申しわけございません。外は冷えておりますので、どうぞご自愛くださいね。お大事にどうぞ」というように、最後まで患者さんに対して「お待たせしていることに対する謝罪」「患者さんをいたわる言葉」を添えるようにすることが、大切です。

30分に1回以上、スタッフが自ら待合室へ行ってみよう

待ち時間が長いということは、それだけ患者さんが多く、スタッフが行うべき業務量も多くなります。そのためスタッフは時間に追われがちとなり、待合室で患者さんがどのように待ち時間を過ごしているのかまでは把握できず、配慮が足りなくなってしまうことがあります。しかし先ほどもご紹介した通り、患者さんのなかには待ち時間を過ごす間、イライラや退屈などの負の感情を抱きやすく、この感情に対してなんらかの対策を行わないと、その不満から満足度を大きく下げてしまうことにもなりかねません。
そこで忙しいときこそあえて、30分に1回以上はスタッフが待合室へ出向き、気になる患者さんにはスタッフ側から声をかけることが大切です。待合室にスタッフが出向くことで、「雑誌が読みにくい位置に置いてある…」「テレビの音量が小さく患者さんが聞き取りにくい…」というような、待合室におけるさまざまな不備を見つけだしやすくなる、というメリットもあります。
待ち時間を完全にゼロにすることはできません。だからこそ、そういったスタッフの細かな心配りが、患者さんの満足度をあげる要因の一つであるといえます。

今回のOFPレポートのまとめ

待ち時間を少しでも減らすこと。それは患者さんの満足度をあげるうえで重要ですが、同時にスタッフの対応にプラスアルファを加えることで、患者さんの不満をさらに減らし、そして満足度を高めることが可能となります。診療所は少ないスタッフ数で仕事をしなくてはいけません。だからこそスタッフ全員が「患者さんをお待たせして申しわけない…」という謝罪の気持ちを持つとともに、「少しでも快適に過ごしていただくためにはどうすればよいか…」について考えることが重要といえます。是非、次回開催の院内会議(院内カンファレンス)にて全員で考えてみてください。

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