院長の困りごと 14

診療所経営での一番の悩みとは・・・
繁盛している診療所の奥義とは

【1】診療所経営での一番の悩みは「スタッフ問題」

診療所を開設後、終わりが見えない一番の悩みは、「スタッフ問題」となるはずです。
患者さんが十分に来るようになってもスタッフ問題は付いて回ります。
診療所において、スタッフに定着してもらえることは理想ですが、ある程度の入れ替わりがあることも必要です。そうでなければ、院長とともに診療所全体が“高齢化”していきます。

看護師不足の今日、“スタッフの退職”は頭の痛い問題です。
出産、マイホーム取得、配偶者の転勤など避けられない退職もあります。定着してくれる気持ちがあっても、期待通りに働いてくれないスタッフを採用してしまうこともあります。

病院勤務時代から知っている看護師を採用した結果、看護師と他のスタッフとの人間関係の調整役を行った事例もあります。看護師としての力量はあるけれど、事務スタッフや他の看護師と協調性を持って「診療所経営」に当たってくれるかは、第三者の目を借りることもお勧めしたいところです。

スタッフが退職してしまうこととなったら、広告を出し、応募書類を整理し、面接日を設定し面接時間の調整をしなければなりません。開業した後は、
開業コンサルタントはいないのが普通ですから、院長自らこれらの事に取り組まなければなりません。

広告の出し方によっても、スタッフの応募は質も数も大幅に違います。
募集時には、自院のホームページにもスタッフ募集広告を出すのは、今では当たり前です。
開業後の「経営サポート」の一番のニーズは、スタッフ問題です。

【2】繁盛している診療所の奥義(特別レポート版)

繁盛している
診療所の奥義

はじめに…!

■話ベタの院長必見! コミュニケーションの基本は、~うなずき、あいづち、はひふへほ
今日、奥さんに言われました。「あなたは本当に興味深そうに人の話を聴くよね…。」
私がコミュニケーションで大事にしていることは次のことです。

「話し3分に聴き7分。~うなずき、あいづち、はひふへほ~」

いつも人と話していると思うことがあります。それは、「人は自分のことをよほど話したいんだなあ~」ということです。
私は聴くことも仕事のひとつだと思っているので、基本的には相手の話をよく聴きます。

普段、院長と話すときも、飲み屋で会うSさんや、隣の家のTさんと話す時も傾聴の練習だと思ってよく聴くようにしています。正直に言うと話の内容はよく覚えていないことも多いです。
時折、相手のまばたきの数を数えたり、眉毛の形や肌のつやを観察したりしています。

聴く、という行為だけでも、相手は承認されていると感じるといいます。
私がよく話を聴いてあげるときっと嬉しいのだ。おそらくその時間が楽しいのだと思っています。
だから、よく次のように言われる。「大山さんの話は楽しい…!」

実は違う。セミナー講師として講演の時間以外は、私はほとんど“話をしていない”にも関わらず
「大山さんの話は楽しい…!」と言われ、お土産なんぞを頂くこともあります。
そして、【好かれる】ことが多い。

ランチェスター戦略を経営に応用した日本の第一人者竹田陽一先生が言っていた。『好かれなさい。』
当たり前ですが、人は嫌いな人からはあえてモノを買わない。なんとも思っていない人にわざわざ連絡をすることはない。へりくだる、へつらう、こびをうる必要はない。

相手の目を見て話を聴き、うなずいて、あいづちを打ち、「はー」「ひー!」「ふー」「へ~」「ほう」
と応対するだけでも多くの場合、人間関係はうまくいきます。

・院内スタッフに話を聴いてもらえない院長のなんと多いことか…!
・夫に話を聴いてもらえない院長夫人のなんと多いことか…!
・院長に話を聴いてもらえない患者さんのなんと多いことか…!

世の中には承認して欲しがっている人が想像以上に多い。だから、それを満たしてあげれば良い。
人間は承認されたいのです。聴くことに少し意識を向けるだけでも仕事やコミュニケーションはうまく回りだします。
私はどんな商品やサービスを扱っていても、どんな業界で働いていてもビジネスにはひとつの共通項があると考えています。それは…患者さんは『人』である、ということ。

そして人は、『心』で好き嫌いを感じ、『心』で興味と無関心を決め、『心』で買うか買わないかの行動に至ります。人の『心』を理解し、その動かし方を身に付けるビジネス心理学をベースにした「知識」や「スキル」や「ノウハウ」はどんな業界や職種の方々であっても患者さんという「人」を相手にしているかぎり、あるいは上司や部下やスタッフ、取引先といった「人」を相手にしているかぎり、「すぐに実戦で使える」ので幅広い業種、職種の方からのリピートがあるのだと思っています。
この「webレポート」が、すぐにお仕事に役立てて頂けることを楽しみにしています。

繁盛している診療所の共通点

私が、毎月数回訪問するクライアント先の診療所の中でも、“繁盛している診療所”には、ある共通点があることに気がつきます。ここでは、“繁盛しいている診療所”に共通している要素について考えてみます。まず、大前提として院長の技術や人柄が優れていなければ、繁盛している診療所になることはあり得ません。

院長に求められる“スキルや要素”については、後で詳しく解説しますが、ここでは、それ以外に意識しておくべきポイントについて解説します。“繁盛している診療所”の共通点は、大きく以下の三つに代表されます。

【1】従業員がいきいきとしている…
【2】人材(人財)が定着している…
【3】従業員の家族が通院している…

◆【1】従業員がいきいきとしている…
一つ目は、「従業員がいきいきとしている」です。特に、受付は診療所の「顔」ともいうべき場所です。
挨拶や電話対応も含めて受付の応対が、“明るくて気持ちよい…”というのが大きなポイント。

診療所経営にとって“口コミ”は生命線です。受付の対応次第で、“よい口コミ”も“悪い口コミ”もあっという間に広がってしまうことをよく認識しておく必要があります。いくら院長が、“丁寧な診察と明るい対応”をしていても、“受付の対応”が連動していなければ、患者さんの評価は決して伴わないでしょう。

受付の対応を見ただけで、院長の理念や方針が従業員にきちんと伝わっているのかどうかは一目瞭然。
また、院長がしっかりとした見識のもとに従業員を採用し、教育をしているのかどうかも伝わってきます。
例えば、診察の終了時間を少し過ぎた時刻に患者さんが受付にやってきたとします。
ここで、「診察時間は終了しましたので、また後日にお越しください…」と言えば、受付の従業員は残業なくその日の仕事をスムーズに終えることができます。

一方で、「今からでも大丈夫ですよ…」と患者さんを招き入れれば、それによって従業員は、仕事が増えることにより、帰宅時間も遅くなってしまうかもしれません。
しかし、患者さんは“何かしら体に不調を感じて不安な気持ち”で診療所に足を運んでくるわけです。

どちらの対応が“患者さんにとってありがたい”かは、比較するまでもないでしょう。
“院長の方針”がきちんと伝わっていれば、患者さんの気持ちに寄り添った対応ができるはずです。

◆【2】人材(人財)が定着している…
繁盛している診療所”の共通点の二つ目は、「人材(人財)が定着している…!」です。
これも私自身が見聞きしてきた限り、“繁盛している診療所”に共通しています。

私は、診療所を定期的に訪問していますが、“長年同じ従業員を見かける診療所”と“頻繁に従業員が入れ替わる診療所”があって、やはり、“地域で支持を受けて繁盛している診療所”は、前者であることが殆どです。

診療所という職場は、一般的に女性の比率が高いため、結婚、出産、夫の転勤など、対外的な要因で環境を離れざるを得ないケースが少なくありません。そういった環境にあっても、長く従業員が定着しているということは、それだけ働きやすい職場であると評価できるでしょう。
では、どういう診療所が働きやすいと言えるのでしょうか…?
給料の待遇がよい、職場の設備がよいなどの条件も無視できないところですが、根本にあるのは、

「やりがいを持てる職場である…」「人間関係がよい職場である…」という要素ではないかと思います。
「やりがいを持てる…」とは、モチベーションを維持しながら自発的に働いているということです。
例えば、従業員が患者さんに親切な対応をしたときや、書類の作成にミスがなかったときに、院長や周囲の先輩が感謝の言葉を伝えるだけでも効果的です。

「いつも正確な書類で助かるよ…ありがとう」
「○○さんの電話の応対は素晴らしいね…ありがとう」
「掃除がいつも丁寧で気持ちがいいね…ありがとう」

そんなちょっとした一言であっても、その人は認められていると感じてモチベーションがアップするはずです。また、「人間関係がよい」というのは、上下や横の人間関係の風通しがよい職場ということです。誰しも、周囲の人と良好な関係を築きながら居心地の良い環境で働きたいと思うはずです。そういった働きやすい環境をつくることができるかどうかも、“院長の働きかけ次第”です。

◆【3】従業員の家族が通院している…
従業員の家族や知人も含めて、“働いている人の身近な関係者が通院している”という点も見逃せません。
経営が上手くいき、患者さんからの信頼も厚い診療所には、従業員の家族や知人などが確実に通院しています。従業員が身内である家族や知人、友人に通院を勧めるということは、やはり院長のことを信頼している証拠です。人間的にも、技術的にも素晴らしいと認識しているからこそ、自信を持っていろいろな人を紹介できるのです。これは、自分の働いている職場が素晴らしいという評価でもあり、職場環境に満足している表れでもあります。もちろん、診療所によっては、福利厚生の一環として、従業員の家族について窓口負担金をある程度まで免除している場合もありますから、家族が診療所を利用するのは当然ではないかとも思われます。
それでも、従業員が院長を信頼していなければ、大切な家族を診療してもらおうとは考えないはずです。

◆経営に欠かせないのは「人」
ここまでの解説を見てもお分かりのように、繁盛している診療所に共通する【1】~【3】の要素は、いずれも従業員の対応に大きく関係しています。結論から言えば、“診療所が繁盛するかどうかのポイント”は、従業員の働きが大きく関わってきます。院長自身のキャラクターや能力と、従業員のパフォーマンスが両立した時、相乗効果によって大きく成長していくことが期待できます“診療所を繁盛させる”には、院長だけでなく、従業員のやりがいの満足度を高めることの重要性を理解してください。

繁盛している診療所の法則とは…?

◆患者さんの意識の変化に対応する
近年は「個人情報の取扱い」について意識が高まり、個人情報保護法の施行以降、企業や団体などでの個人情報の取扱いが慎重になっています。こうした背景を受けて、プライバシーポリシー(診療所での個人情報に関する基本方針や個人情報の利用目的を定めたもの)を“ホームページ”や“院内掲示”などで公表する動きも一般化してきました。

特に若年世代が多く来院する診療所では、プライバシーポリシーをきちんと作っておくことが“患者ニーズ”を捉えることにも繋がります。また、待合室や中待合スペースなどでドクターと患者さんの会話が聞こえてしまう様な診療所があります。これも個人情報の取扱いに敏感な世代にとって、マイナスに受け取られてしまう恐れがあります。時代の変化や患者さんの意識を尊重し、診療所内でも患者さんの個人情報が守られる様な配慮をしていくことが求められるでしょう。

◆簡単マーケティングの挑戦…!
営業力を上げるために簡単マーケティングにチャレンジしましょう。マーケティングは、企業が商品やサービスを顧客に提供するとき、顧客を満足させるための活動を体系的にまとめたものです。
“マーケティング”は、「お客様」、「競合企業」、「自社」を分析することから始まります。

分析と言っても難しく考える必要はありません。まずは、診療所を取り巻く患者さんを観察して分析するところから初めてみましょう。基本は、診療所の前や最寄りの交通機関前などを通る人を1日に渡って定点観測することです。これだけでも、朝、昼、夜の時間帯で、人の流れがどう変わるのか、どんな人が集まってくるのかなどの情報をキャッチできます。

次に、診療所の周辺地域を自分の足で歩いてみて、どういう場所なのかを調査してみましょう。
感覚的なものであっても、肌で確かめることに意味があります。診療所と自宅が近ければ、朝、早起きして近所をジョギングしたり、ウォーキングしたりしてもいいでしょう。院長自身の健康管理にも役に立ちますし、朝から脳が活性化し、朝御飯を美味しく食べることができるなど、副次的な効果も期待できます。
地域の様子を見ながらひと回りするだけでも何らかの発見があるものです。

そして高齢者が多い地域であれば、お年寄りが集まる場所に足を向けてみるのも良いでしょう。
直接、一人ひとりに対して医療に求めるニーズをインタビューしていくのは難しいかもしれません。
しかし、お年寄りのうち、一定数の人は何らかの病気を抱えているので、普段から交流を持つことで“ニーズ”を見つけ出すヒントがあるはずです。

院長として地域に根ざした仕事をしていくためには、“地域のコミュニティ”や“地域行事”に積極的に参加することも重要です。行政と協力して地域住民を対象としたセミナーを開催する、あるいはスタッフが健康教室を開催することも可能です。

私が見る限り、“地域で必要とされ、支持を受けている院長”は、地域のために労を惜しまず活動されている方が多いです。

院長の「地域住民向け健康セミナー」

◆患者さんの立場に立つ
院長自身が病気を患い、他の病院や診療所で診察や定期検診を受けるときがあるかと思います。こういった時に、第三者の立場から他の診療所を見ると新鮮な感覚を持って自身の診療所との違いに気づくのではないかと思います。そんな客観的な視点を意識して、ご自身の診療所を改めて見直すのをお勧めします。

普段当たり前のように行っている、自院での“「受診」⇒「診察」⇒「会計」”のフローを、他の診療所のフローと比べてみましょう。他の診療所に優れた要素を見つけたら積極的に取り入れていくことが可能ですし、御自身の診療所の方が進んでいると思える要素は、もっと積極的にアピールする方法が考えられるかもしれません。同様に、先輩や後輩などの診療所を見学させてもらえれば、刺激を得られるはずです。その際、普段目に触れることがない「待ち時間対策」・「会計管理」・「勤怠管理」・「在庫管理・クレーム対策」等を積極的に見ておきたいところです。

常に同じ視点で仕事をしていると、経営する診療所について十分にわかっているつもりでも、気付かない死角が生まれてしまうものです。常に“好奇心と向上心”を持ち、定期的に客観的な視点で問題点や改善点がないかをチェックしていく習慣を心がけましょう。

◆営業の前にまずは“医師として必須の技術力”
院長に必須のスキルとして筆頭に挙げられるのは、何と言っても医師としての「技術」や「知識」・「経験」でしょう。どの院長にも、開業に至るまでの勤務医時代、あるいは開業後の日々の診療行為を通じて、「技術」・「知識」・「経験」を積み重ねてきているはずです。

ただし、最も重要なのは“自信を持って”提供できる「経験」・「知識」・「経験」であるということです。
まず、院長自身の強みとして、地域の他診療所と比較して「優れた専門性」や「患者サービス」を持つことが求められます。患者さんに「この地域で○○の治療なら、□□先生が素晴らしい。あの先生に任せれば間違いないだろう…」と信頼を持たれるような「絶対的な強み」を持つことは、開業医としての成功の一つの形です。

また、患者さんは外来受診する前に、「口コミ」や「インターネット」などを通じてある程度の知識をお持ちの方が殆どです。症状別に病名や治療法、投薬する薬の種類などを認識している方も多い時代です。こういった患者さんたちが納得できるような、また誤った知識を持っているときには、適正に正すことができる様な「深い知識」を身につけていることが開業の大前提となります。

◆医師としての「連携力」も重要です…!
開業医の場合は、「専門性を持って診察する…」のはもちろんですが、当然のことながら院長のスキルだけで全ての疾患に対応できるわけではありません。専門外の患者さんがいた場合、他科の専門医に診てもらったり、患者さんに詳しい検査が必要で、御自身の診療所に検査機器がない場合に、「適切な病院を紹介したりするなどといった繋がり = 地域のかかりつけ医」としての総合的な連携力も重要となってくるでしょう。

御自身の診療所単独で患者さんの安心や満足を達成していくことも大切ですが、地域の医師同士のネットワークを作って情報交換をしていくのも重要な仕事の一環です。医師の世界は縦社会が中心です。同じ系列の大学病院の医師や、同じ診療科の医師だけでなく、地域における同業他科の医師と連携するネットワークをできるかも、地域医療を支える診療所経営には重要です。ここは、専門性の追求だけに重きをおくことができる勤務医との大きな違いと言えます。

◆伝える力を持っているか…?
「技術」・「知識」・「経験」を提供するということの中には、それらを患者さんに“わかりやすい言葉”で伝える能力も含まれます。深い専門性を持って知識に通じる力と、その知識を患者さんに伝える力は別のものです

専門家同士で何気なく使っている専門用語は、患者さんにとって難解な言葉が多いものです。専門知識を難しい言葉で伝えることよりも、専門外の人に専門用語を使わずに、わかりやすく理解できる言葉で伝えることの方が実は何倍も難しいのです。誰にでもわかる言葉や、誰にでもわかる数値を使って、「○○が原因なので、対処法としては、この薬を使えば△△を抑える成分がありますから、一週間くらいしたら痛みがひきますよ…!」の様に伝えると患者さんも安心できます。

伝える能力には、ただ患者さんを安心させるだけでなく、「よいこと」「よくないこと」を正しく伝えて納得してもらうスキルもあります。ある症状に対して、一つの治療法が正解とは言い切れない時、複数の選択肢が生じるのは決して珍しいことではありません。そのような時、それぞれの選択肢の「メリット・デメリット」を伝えた上で適切な提案をするのも、大切なコミュニケーションスキルと言えます。

◆話を聞く能力
一般に患者さんから慕われている院長の特徴を見ていると、「優しい…」「話をきちんと聞いてくれる…」
「不安に感じていることに対して丁寧な説明をしてくれる…」といった要素が挙げられるようです。
「技術」・「知識」・「経験」を備えるだけで満足してよいのではなく、それらを患者さんに伝えることができて初めて「優れた院長」として認知されるということです。

開業して仕事が忙しくなってくると“問診の時間診察の時間”が短くなってしまいがちであり、時間をかけて患者さんに説明するのは難しくなってきます。ここで“ポイント”となるのが「聞く」ということです。

院長の説明力は「聞く力」に比例します。患者さんは、自分が不安に思う気持ちを院長に聞いてほしいという気持ちを抱えていますから、相手の話に耳を傾けて質問に答えようとする院長の姿勢が大きな意味を持ちます。どうしても長い説明が必要なときは、直接口頭で伝えるだけでなく、カードなどを使って伝える方法もあります。患者さんが生活していく上で注意すべきポイントなどをカードにまとめておき、一言コメントを書き添えて渡すだけでも患者さんは大きな安心が得られるでしょう。

◆安心させるコミュニケーションとは…?
今、「姿勢が大切」という話をしましたが、患者さんとのコミュニケーションを取るにあたっては、直接向き合うという姿勢は重要なポイントです。基本的なことですが、患者さんをしっかり見て受け答えする院長と、患者さんを見ずにパソコンのモニターなどから目を離さずに受け答えをしている院長とでは、与える安心感に大きな差が生じてしまいます。

患者さんは、院長が思っている以上に院長の姿勢や言葉に強い印象を持っています。たとえ症状が深刻ではないとしても、モニターを見ながら何気なく「もういいですよ。良くなりましたね。お大事に」と言われても、心から安心できないかもしれません。きちんと患者さんと向き合って「〇〇だけ気をつければもう大丈夫ですよ。ただ、癖になっている感じもあるので3ヶ月に一度くらい顔を見せてくださいね」と伝えれば、患者さんは安心すると同時に「3ヶ月に一度」の印象も残っていますから、3か月後の再診に繋がり、何かあったらこの先生のお世話になろうという気持ちにもなるはずです。

姿勢に加えて表情も重要です。院長がいつも“ニコニコ”しておおらかな感じで診察するだけで、患者さんの緊張感がほぐれる効果があるからです。意外に自分では気づかないのですが、院長本人は普通に接しているつもりでも、相手からは、「ムスっとしている」「怖そう」と思われて、敬遠されてしまうケースがありがちです。ただでさえ診療所に来院する患者さんは、多かれ少なかれ緊張している訳ですから、“少しでも緊張をやわらげるような接し方の工夫”が求められるのを常に忘れないで頂きたいと思います。

◆従業員に伝えることも大切…!
もちろんこれらのコミュニケーションは、院長だけのスキルにとどまる問題ではありません。従業員に伝える力も重要です。院長が直接受付で患者さんに対応するわけではないので、普段からいかに御自身の方針を従業員に伝えているかがカギとなります。

繁盛している診療所は、例外なく“従業員の対応が非常に気持ちよく”、院長と従業員が、共通のビジョンを持って、その実現に向けて自然に行動しています。院長のビジョンを伝える方法としては、朝礼やミーティングなど、短時間でも伝える機会をつくり、繰り返しメッセージを浸透させることが基本となるでしょう。
院長自身は、“何回か言えばわかってもらえる”と思い、いつの間にか“伝わっている「つもり」”になってしまっているケースが少なくありません。ビジョンは、院長が思っているほど従業員には伝わって「いない」と考えるべきです。

・「挨拶はしっかりしましょう…」
・「掃除は気持ちよく、毎日綺麗にやりましょう…」

こういった当たり前の、今さら言わなくても大丈夫だろうと思うようなことでも、毎日のように何度も何度も繰り返し伝えて徹底することが大切です。院長自身が目の届かない部分もあるでしょうから、受付や看護師のリーダーなどの中心人物とのコミュニケーションを密にして、伝えてもらう方法も並行して行うといいでしょう。逆に、リーダーから診療所の現状についてしっかり報告を受けておくことも重要です。先程、患者さんに対するコミュニケーションとして、「聞く」ことの重要性をお伝えしましたが、従業員に対しても「聞く」姿勢を見せてほしいと思います。

一方的に、院長の考え方を押し付けるだけでは、従業員の反感を買い、組織のまとまりを欠いてしまう恐れがあります。自分から伝える一歩で、相手の意見や言い分も耳を傾けていきましょう。

◆受付の対応は“営業の基本”です…!
先程、院長の「コミュニケーションスキル」についてレポートしましたが、営業という側面から考えても、コミュニケーションは大きな要素です。これは、一般企業で働く「営業職」の人をイメージするとわかりやすいと思います。お客さんに、わかりやすい言葉で商品やサービスについて説明や質問に誠実に対応するなどして、信頼関係を結んだ結果として、お客様はその人からその商品やサービスを購入しようという決断をします。
「モノやサービス」を売るためには、人と人との結びつきが不可欠であり、その結びつきを強固なものにするのが“コミュニケーション”です。相手にとってどれくらい利益があるかを、メリット・デメリットを含めて丁寧に伝えた結果、お客様は「買わされた」という感覚ではなく、自らの意思で購入をした感覚を持てます。診療所も医療サービスを提供する場ですので、信頼関係を高めるようなコミュニケーションを追及することが大切です。

“コミュニケーションを高めるポイント”はたくさんありますが、まずは、受付の対応から見直してみるとよいでしょう。どの患者さんも診療所に入ると、まずは受付に行きます。ここで気持ちのよい挨拶を受けると印象がよくなります。挨拶は基本中の基本ですから徹底しないといけません。
診療時間前に複数の患者さんが来所されたとき、不満がでないように診療の順番を案内し、終了間際に来た患者さんにもイヤな顔をせずに対応するなどの基本が徹底されているでしょうか…?

緊急性がある患者さんがいるときは、受付順にとらわれずに柔軟に対応するなどの判断力も重要です。
特に新初診の患者さんは、緊張感を持って来院されるわけですから、受付の対応を向上させるだけでも、診療所の評価は大きく高まります。

◆「待つ」と「待たされる」の違いを知る…!
診療所の患者さんが増えてくると、待ち時間の問題は避けられないものとなります。
“待ち時間が発生するのはやむを得ない”ことですが、同じ待ち時間でも「待つ」と「待たされる」では印象が大きく違ってきます。誰しも「あと30分待てばいい…」とわかっている状況で待つのと、「いつまで待てばいいのかわからない…」状況で、結果30分待たされたのとでは、感じ方が違います。患者さんに待ち時間を正確に知らせるのは、システム上難しいと思いますが、少なくとも“あと何人待てばよいのか”を知らせるだけでも、ストレスは軽減されるはずです。

診療所によっては、「診療時間の予約」や「携帯電話への呼び出しメール」などができる仕組みを導入するなど、待ち時間対策の工夫をしています。お金をかけて待ち時間の人数を表示するような機器を導入しなくても、番号札の使用などで待ち時間を確認できる仕組みを作っておくことでも充分サービスの一つとなるでしょう。

◆診療所は非日常の場です…!
診療所は院長にとっては日常的な職場ですが、患者さんにとっては非日常の場であり、あまり積極的に好んで行きたい場所とは言い難いでしょう。“デパート”や“大型ショッピングモール”などの小売業の接客業では、基本的にお客さんも前向きな気持ちで来店されるので、適切な接客をすれば、お客さんの気持ちを乗せることも可能です。しかし、診療所では身体の不調や痛み、悩みを抱えて来院する時点で、患者さんの多くはネガティブな気分を持っています。診療所の接遇は、いわばマイナスからのスタートです。

そのことを院長が十分に理解した上で、忙しいときであっても、患者さんに対してはあたたかく、おおらかな気持ちで接することが大切です。稀に患者さんを叱っている院長を見受けますが、患者さんにとっては、不調や痛みなどに加え、叱られるストレスを受けたのでは、たまったものではありません。院長が、思いやりを持った姿勢で患者さんに接することで、従業員の対応も変わってくるのではないでしょうか。

繁盛する診療所の法則とは…?(人事編)

次に紹介するのは“人事力”です。
診療所経営において、人材は最も重要な経営資源であると同時に、“財産”でもあります。
その反面、人材は最もリスクをはらんでいる要素でもあります。診療所で“労務トラブル”が起きると、解決に時間がかかるだけでなく、院長の精神的ダメージも相当なものになります。
つまり、診療所の人材はプラスに向かうと、経営の発展に大きく貢献する可能性を秘めている存在であり、マイナスに向かうと経営の屋台骨を揺るがしかねない存在であるということです。
まずは、良くも悪くも“人事力が大きなカギを握っている”という事実を踏まえてください。

◆貴院は、「トップダウン型」か「ボトムアップ型」どちらですか…
私が経営支援の仕事上から診療所を見た経験からしますと、診療所の組織は大きく分けて2つのパターンに分類できます。一つ目が「トップダウン型」です。これは、院長が経営について全ての権限を握り、院長の指示のもとで従業員が動く組織です。もう一つは、「ボトムアップ型」です。これは、診療所内の各セクションにチームリーダーがいて、そのセクションに関しては、チームリーダーに権限が与えられている組織です。
院長がトップであることには変わりないのですが、院長とチームリーダーが横に近い関係で相談しながら経営を推し進めていくようなイメージです。

■トップダウン型・ボトムアップ型 組織の比較

メリットデメリット
トップ
ダウン型
  • ・指示した仕事はスピーディーに進む
  • ・院長の意思がダイレクトに反映される
  • ・従業員が指示待ちの姿勢になりがち
  • ・自主的な意見が生まれにくくなる
ボトム
アップ型
  • ・メンバーが主体的に仕事を進めてくれる
  • ・細部はリーダーに任せて経営や診療に集中できる
  • ・院長の意思よりもチームの創意を
    優先しなければならないときがある

どちらのパターンを選択するかによって、院長の仕事の進め方は異なります。まずは、院長自身がどちらのパターンで診療所を運営していくのかを明確にしていただきたいと思います。2つのパターンには優劣はありませんが、それぞれにメリット・デメリットがあります。

トップダウン型は、院長の指示通りにスタッフが動きますから、一つひとつの意思決定や仕事のスピードは速くなる傾向があります。一方で、従業員は与えられた仕事をこなせばいいというような指示待ちの姿勢が定着することで、応用力が利かなくなるリスクを考慮しなければなりません。
また、従業員から積極的な意見が上がってくる雰囲気になりにくいという傾向があります。

ボトムアップ型は、従業員に権限を与えることでメンバーが創意工夫して自ら責任感を持ち改善を進めていく効果が期待できます。その反面、部分的に院長の思惑と異なることがあっても、チームの総意を尊重しなければならず、院長は自分の意図通りに軌道修正すべきかジレンマを抱えてしまう可能性があります。

おそらく、規模の小さい診療所はチームをつくりにくいため、必然的にトップダウン型になりがちです。一方、スタッフの人数が増えてくると、仕事をスムーズに進めるには、ボトムアップ型の方が得策かもしれません。
それぞれのタイプのメリット・デメリットを把握し進めることが大事です。

◆伝える手段を確認しておきましょう!
先程、解説した通り、“従業員にどのように働きかけてコミュニケーションを取っていくか”院長の手腕が問われます。繰り返しますが、“重要なことは何度も何度も伝える”ことが肝心です。相手に仕事の指示を与えたとき、相手が「わかりました…」と答えたからといって、確実に伝わったと考えるのは早計です。

実際には、一度伝えたくらいでは、相手に理解されていない可能性が高く、あとあとフォローに追われることにもなりかねません。

従業員に仕事の指示を出す時には、「自分は120%の丁寧さで伝えているつもりでも、相手には70%程度しか伝わっていない…」という位の認識を持つと良いでしょう。では、具体的にどう伝えたらよいのか…?

リッツ・カールトンホテルの創業者である“ホラスト・シュルツィ氏は、会議をするときに自分がやりたいことを説明した後、出席者を指名してこう声をかけたそうです。
「今、私が言ったことをもう一度リピートしてごらん…」

出席者が話すと、必ず理解があいまいになっている箇所があるので、その部分をもう一度説明して聞かせるのです。そうやって何度も説明しているうちに、伝えたいメッセージがきちんと伝わります。

しかし、同じように日本人が「今、言ったことを繰り返してみなさい」と言うと、相手の感情を損なってしまう恐れがあります。元リッツ・カールトン日本支社長であった高野登氏は、シュルツィ氏のコミュニケーションを応用して、この様に声を掛けていたそうです。「今、僕が言ったことを、あなたのセクションで実行したときに、どんな行動が起きるかを想定して、ちょっと提案してくれませんか…?」
相手が「どんな行動を起こすか…」を聞くことで、正しく伝わっているかを確認していたのです。

私は、支援先の院長には、「従業員に指示する時には、口頭で伝えるだけでなく、付箋などにメモをして渡すように心がけたらいかがですか…?」と助言しています。

誰でも耳にした情報を全て記憶できるとは限りません。メモに残しておけば、後から確認もできますし、「言った」「言わない」のトラブルを防ぐこともできます。一つの仕事の指示を受けた後で、その仕事を完結する前に他の仕事や患者さん対応していたりすると、指示のことは忘れてしまったりするものです。

◆風通しの良い組織をつくる
先程、「トップダウン型」の組織について解説したときにも触れましたが、あまりに院長のリーダーシップが強すぎると、従業員が委縮して、自主性を失ってしまう危険性があります。
従業員が自主性を失うと、全ての仕事が指示待ち状態になり、かえって仕事のスピードが遅くなりがちです。
院長が一方的に支持をするだけでなく、従業員からも「ここはこうした方がいいと思います」と提案できる様な環境に整えておく必要があります。

具体的な方法としては、“定期的に従業員とコミュニケーションを取る機会をつくる”ことが一番です。
個人面談を行うのもよいですし、チームで問題解決のミーティングを開催するのもよいでしょう。
従業員が持ち回りでテーマを設定して、仕事の改善点を話し合う時間を設定している診療所もあります。

ここでコーチングの手法を使い、従業員の自発的な意見を引き出すのも一つの方法です。
コーチングとは、“上司と部下が共通の目標を持ちコミュニケーションを取りながら目的を達成していく活動”を指します。面談やミーティングの場では、院長の考え方を伝えるだけでなく、質問を通じて答えを引き出していきます。例えば、「患者さんの待ち時間短縮について」などのテーマを上げ、みんなで問題を共有し解決策を出し合い、合意形成を図るのです。

相手の考えを尊重する姿勢が伝わることによって、仕事に対する“やらされ感”がなくなり、積極的に仕事に関わろうとする意欲が生まれます。他人からの押し付けではなく自分(達)で決めたことは、自主性が生まれ行動力が伴うものです。

■コーチングに必要な3つのポイント

≪1≫信じること…!
・従業員の可能性を信じることと、院長と従業員の信頼関係をつくることが大切

≪2≫認めること…!
・従業員の良いところを認めて褒め、伸ばしていくことが重要

≪3≫任せること…!
・従業員の適性や強みを把握し、何をどこまで任せるのかを院長が判断する

◆悪い情報ほど早く伝わる体制になっているか…?
悪い情報が院長にきちんと伝わっているかということは、診療所の組織が正しく機能しているかどうかのバロメーターとも言えます。悪い情報とは、「トラブル」や「クレーム」や「仕事のミス」などを意味します。
現在、院長自身は、従業員にトラブルやクレームや仕事のミスなどが起こった時、報告を確実に受けていると断言できるでしょうか…?

誰しも、いい情報は積極的に伝えたいと思いますが、自分のミスや不祥事を上司に報告するのは避けたいと思うものです。しかし、安定した経営を続けていくにあたっては、悪い情報こそが最も重要な情報となります。
例えば、初歩的なミスによって患者さんの診察の順番を飛ばしてしまい、クレームが発生したとします。
その事実を従業員がきちんと報告していれば、院長も患者さんにお詫びの言葉を伝えることができますし、次にミスを犯さないための仕組みを検討することもできるはずです。

しかし、クレームがそのまま放置されると患者さんは不満を抱き続けるかもしれませんし、再び同じようなミスが起きるかもしれません。その患者さんが治療を受けるのをやめてしまうだけでなく、地域の中で「マイナスの評判」を広めてしまうと、取り戻すには莫大な時間と労力を要します。悪い情報を素早く知って対処することで、傷口が広がるのを防ぐと同時に、同じような問題を起こさないような改善策を講ずることが出来ます。
ですから、小さな問題であっても悪い情報が院長にまで伝わるような体制にしておく必要があるのです。

具体的な方策としては、とにかく情報を共有する必要性を繰り返し伝えていくほかありません。
従業員の責任だけにフォーカスして追及するのではなく、診療所を良くしていくという共通の目標に目を向けて、そのために情報の共有が必要であるという認識を強固にしていきましょう。

◆「叱る」と「怒る」は違います…!
ちょっと前に、悪い情報が院長まで伝わるような組織にしなければならないとお話ししました.
しかし、言うのは簡単ですが、実際にそれを実行していくのは、“なかなか難題”だと思います。
やはり、組織作りの根底で求められるのは、“院長と従業員の間の信頼感”です。お互いに信頼しているからこそ、いい情報も悪い情報も共有しながら、診療所を発展させていけるからです。

そういった普段からの信頼関係は、“褒めるべきときは褒め、叱るべきときは叱る”というコミュニケーションによって培われていきます。「叱る」と「怒る」は違います。
怒る」は感情のままに怒鳴ったり、相手を傷つけたりするような言葉を投げかける行為をいいます。
感情がコントロールできないからこそ怒ることで気を紛らわせようとしているのでしょうが、これでは、お互いの信頼関係など一つも生まれてきません。

叱る」は相手の成長を念頭においた上での働きかけです。相手が成長するために言わなければならないことを伝えるのが”叱る”ということです。感情的になりそうなときには、高所から自分自身を眺めてみるような感覚で冷静になっていただきたいと思います。従業員に対してもどかしさを感じることもあるでしょうが、そもそもは、その人を採用したのは院長自身のはずです。自分の責任で人材を雇った以上、最後まで責任を持たなければなりません。そのためには従業員に責任を押し付けるのではなく、その人が能力を発揮できるような環境づくりに力を注ぐべきです。

若い世代の従業員ほど、叱られることに慣れていないため、最初は叱ることに躊躇し、迷ってしまうこともあるでしょう。個別に叱る時には、大声で相手を手厳しく非難するのではなく、トーンを落として静かな口調で教え諭すように叱るようにしましょう。その方が相手の心にも響き、反省の気持ちも起きやすいと思います。場合によっては直接しかるのではなく、リーダーを叱ることでチームに緊張感をもたらすようなテクニックも必要です。その場合は、当然院長とリーダーの間に信頼関係があり、意思の疎通ができているという前提が重要です。

なお、患者さんや他の従業員の前で、声を荒げたり叱り飛ばしたりするのはご法度です。診療所全体の雰囲気が悪くなりますし、従業員は委縮してしまい、院長との間に大きな溝ができてしまいます。そうなると、院長によい意見や悪い報告などが上がらず、診療所内の風通しが悪くなり、従業員の定着率も低くなるでしょう。院長は、「イライラ」することがあっても、冷静に対応できる包容力が必要です。

◆「褒める」ことがもたらすマネジメント効果とは…?
叱るだけでなく、時には褒めて従業員の気持ちを乗せるマネジメントも必要です。
当たり前の仕事が当たり前に出来たときに、当たり前のように褒める…!
これは簡単そうでありながら実際にできている院長は少ないのではないでしょうか。

「すごいね…!」、「ありがとう…!」、「助かったよ…!」 褒められれば、誰でも嬉しく感じます

褒め言葉には、大きな力が生まれます。シンプルな言葉ほど、掛けてもらった人にやる気が生まれます。
一部の院長には、「褒め言葉を掛けると自分の威厳が保てない…」といった心理が働いて、なかなか口に出せないことがあるかもしれません。しかし、褒められることで従業員は自分が認められていると感じ、院長を尊敬して、「もっと能力を発揮していこう…」という気持ちを持ちます。
是非、「シンプルな褒め言葉」を惜しまずに掛けていただきたいと思います。

◆褒めるタイミング・褒め方のコツとは…?
従業員を効果的に褒める上で、「すぐに褒める」というタイミングが非常に重要です。数日経ってから思い出したように褒められるのも、従業員にとって嬉しいことではありますが、自分の行為の記憶も薄れているため、どうして褒められたのかという実感を持ちにくくなります。

成果を目にしたら、その場であったり、就業日であったり、その日のうちに褒めるのがベストです。
すぐに褒められると、その理由が明確に理解できるので、褒められた行動を繰り返そうとする意欲が沸きやすくなるのです。また、ミーティングなど、みんなが集まった時に褒めるのも効果的です。みんなの前で褒められると、その人の自尊心も高まりますし、他の人たちも、同じ取り組みをしようという意欲にも繋がります。ただし、人前で褒められることに抵抗を感じてしまう人もいるので、性格を見極めた上で行っていく必要があります。また、いくら仕事ができるからといっても一人の人を集中的に褒め過ぎると、他の従業員から「やっかみ」の心情が芽生えるので、その辺の「サジ加減」は、必要です。

褒め方の応用編として、成果を上げた人を直接評価するだけでなく、成果を上げた人をサポートした人にも注目して褒める方法があります。褒める時には、どうしても成果を上げた人にスポットが当たりがちですが、チームで仕事を進めるにあたっては、何らかのサポートの結果として成果が生まれるケースもあります。

サッカーでゴールした時にアシストしたプレイヤーがいるのを思い浮かべると分かりやすいと思います。
アシストした従業員の働きにも光を当てて評価すると、従業員は「ここまで見ていてくれたのか」と感激します。
チーム内でも、助け合って仕事をしていこうとする相乗効果も生まれるはずです。

◆決断力
多くの来院患者で繁盛し、経営が上手くいっている院長は、概して「決断が速い」という特徴があります。
そういう先生は、診察のスピードも速く患者さんを不必要に待たせずにストレスなく診察していきます。
決して、説明が足りなかったり、診察が「おざなり」になったりするわけではなく、手際よく仕事を進めていく能力に長けているのです。決断が速くなると、患者さんの数も必然的に増えるため、収入もおおきくなるというわけです。

決断力を上げるには、なんといっても、「物事を決して先送りせず、その場で決断する…!」のが一番です。
何事も時間をかけて悩んだところで、よい結果が出るとは限りません。判断材料がそろっていない場合は、まず、データを取り寄せるという決断をします。“繁盛する診療所経営”は、決断の連続です。
例えば、従業員から「先生、Aの薬とBの薬、どっちを買いますか…?」と問われたとします。
二つの薬は、ほぼ同じ効力。Aの薬は単価が低い代わりに100個単位のロットでしか購入できないのに対して、Bの薬は、単価は高いわりに小ロットから購入できます。この時今後どの位薬が必要になるのか、在庫を抱えるリスクなどを天秤にかけて答えを出していくことになります。決断しなければならない事柄は、毎日たくさん生じますから、いちいち立ち止まっているわけにはいきません。短時間に決断して、仕事を前に進めていく姿勢が求められるのです。

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せっかく期待をかけて採用した人材であっても、環境や働きかけによって、以下の様に二極化してしまう傾向が多々あります。「働かされている人」と「働いている人」です。

働かされている人」とは、文字通り、受け身の姿勢で、仕事に取り組んでいる人です。
特徴としては、以下のようなものが挙げられます。

◎「責任を取りたくない…」などと発言をすることが多い。
◎指示待ちの姿勢が強く、主体的に仕事に取り組もうとしない。
◎自分勝手に仕事の範囲を区切り、範囲外の仕事には関わろうとしない。
◎「教えてもらっていないから…」「言われていないから…」という理由で仕事を避ける傾向がある。

一方、「働いている」人は、次の様な姿勢で仕事に取り組んでいます。
◎自らの判断で行動し、仕事を進めていく。
◎チームワークを尊重し、他のチーム内への貢献もいとわない。
◎常に新しい仕事にチャレンジする意欲を持ち、実際に行動している。

御自身の診療所内はいかがでしょうか…?
従業員を全員リストアップした時に、「働かされている人」と「働いている人」が、何人いるか…をチェックしてみることをお勧めします。

自分の判断で行動し、患者さんや仲間のために改善を提案しようとする人が多ければ、当然、診療所は良い方向へと進んでいきます。逆に、消極的で「働かされている人」が多いということになると、将来的な展望も暗くなります。一人でも多くの従業員を、「働かされている人」から「働いている人」に変えていく努力が院長には求められます。

◆仕事への期待を伝え続ける
「働いている人」を増やすためには、「その人に求める仕事に対する取り組み方を伝え、採用時から採用後も繰り返し伝え続けること…」が肝心です。雇用契約書を取り交わす際に、期待する仕事の内容を細かく記載しておくという手続きを取っておくと同時に、口頭でも明確に伝えておくとよいでしょう。その際、単にいろいろな仕事をしてほしいと伝えるだけでは、従業員の“やらされ感”が強くなることで、結果的に「働かされている」状態へと繋がってしまいます。

ですから、「自身の成長のために必要な仕事だからお願いしている…」「他のセクションの仕事も理解しないと、スムーズに連携できないので、いつもと違う仕事もお願いする…」の様に、その仕事が何の為なのかもきちんと伝えるとよいでしょう。“診療所を良くしていくため、従業員さん自身が成長していくため”というゴールが明確になれば、従業員にも前向きに取り組む姿勢が生まれます。

◆権限を与える…!
従業員に主体的に仕事をしてもらうには、何より「権限を与える…」のが一番です。
権限を与えることは、「信頼している証拠」でもあります。どんな人でも、信頼されているという実感があれば、主体的に仕事をしたいという意欲が芽生えてくるものです。

例えば、採用に関しては○○さんが中心となって進めてもらいます。後輩の育成に関しては□□さんに任せます。などと、権限を与えて行くことを考えてみましょう。院長といえども万能ではありません。数字に関しては不得手な院長もいれば、人材育成が不得手な院長もいます。
その分野において秀でたスキルを持つ従業員がいれば、信頼して任せてみましょう。それによって、院長が一人で頑張っていた時よりも、“診療所経営が遥かに良いものへと進化”していくでしょう。

権限を与えるに際しては、万が一問題が生じた時には、院長がきちんと責任を取るというスタンスを伝えておくことも大切です。
「最終的な責任は絶対に取るので、この範囲で好きな様にやっていいよ…!」などと伝えれば、従業員も思い切って主体的性を発揮してくれるでしょう。どこまで任せるかは、院長の判断に委ねられます。相手の経験やスキルを見ながら、柔軟に決定して頂きたいと思います。従業員が、権限の範囲で良い仕事をしたら、「ほめる」ことも意識してください。

些細なことでも、きちんと評価することで従業員は「こういうことをすれば認められるんだな…」という意識を持つようになります。そして、積極的に「ほめられる仕事」をするようになっていきます。

◆相手の言い分にも耳を傾ける…!
従業員は、「評価」や「給与」などを巡って院長にも不満を持ちやすい存在でもあります。
一ヶ月前まで生き生きと仕事をしていた様な人が、ちょっとしたきっかけで診療所を辞めたいと言い出すようなケースも珍しくはありません。こうした従業員の心理状態は、折に触れて確認しておくことが大切です。
定期的に、面談の機会などを設けて、普段の仕事の中で感じていることを、「素直に話してもらう場」をつくる様にしましょう。充実感を持って仕事をしている人もいれば、思わぬ悩みを抱えている人もいるでしょう。

悩んだり、わだかまりを抱えていたりすることについて、院長に話すだけで胸のつかえが取れるということもあります。不平不満や、職場での問題点などをはき出してもらい、経営者として改善できる点があれば、改善を約束します。全ての要求を受け入れられるわけではありませんが、少しでも働きやすい環境づくりに努力している姿勢を示すことができれば、相手の納得度も高まります。

特に、診療所の組織が大きくなるにつれて、院長と従業員の接触機会は少なくなりがちです。

場合によっては、一日仕事をしていて全く会話を交わさないケースも生まれてしまいます。最低でも、朝の朝礼や帰りの挨拶を徹底して、その際に短時間でもいいので、コミュニケーションが取れるように意識してみると良いでしょう。
また、院長自身が、「自分はコミュニケーション能力には自信がない…」と言われるケースも多々あります。
その場合は、「事務長」または、「非常勤事務長」として院内のマネジメントを「医療専門のコンサルタント」にお願いするのも一つの方法です。

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