患者ニーズの把握・マーケティング・チームビルディングを整えたい…
【1】同じ3分でも効果が出る効果的なコミュニケーションとは
院長は、「患者さん」や「院内スタッフ」との“コミュニケーション”は十分にとれていますか…?
「とにかく忙しくてゆっくり会話をしている時間はない…」そんな声が聞こえてきそうですが、良好な人間関係を築くために、「時間」というものが、必要絶対条件ではないと私は考えています。
たとえ短い時間の中でも、相手に自分の気持ちや真意が伝わる「効率的なコミュニケーション」について、私が専門とする「営業」の視点を交えながら一緒に考えてみましょう。
【患者さん編】 : 「安心感」を与える、患者さんとの接し方
◎患者さんがお医者さんに「求めていること」とは…?
「病気」は「気が病む」と書きます。患者さんが“医師”に求めていることは、「病」を治すことは勿論ですが、病気による心細さや不安などの「気持ち」のケアも大きな要素ではないかと思います。
ここで言う「気持ち」のケアとは、医師と接することによって得られる「患者さんの安心感」です。
では、患者さんが安心感を得られる接し方とはどのようなものでしょう。それは、患者さんに、
「この先生は自分のことをわかってくれている…」
「自分の痛みや辛さを理解してくれている…」
と思われるような接し方だと思います。とはいえ実際の医療の現場では、
「とにかく忙しい…」
「患者さん一人ひとりの話をゆっくり聞いている時間がない…」
というのが実情だと思います。では、通常の診療では患者さんに安心感を与えることはできないのでしょうか…?
決してそんなことはないと思います。
一般社会においても、相手に安心感を与えるための特効薬が必ずしも「時間」ではないように、
「安心感を与えるよい接し方」=「じっくり時間をかけて患者さんの話を聞くこと」ではありません。
その一例として、私自身が実際に体験した、ある診療所でのことをお話しましょう。
◎行列のできる診療所の院長と副院長
私の自宅がある札幌市北区の近所には、地元の人たちが足しげく通う、いわゆる行列のできる診療所があります。
その診療所で診療を行っているのは、70代の院長と息子さんの副院長のお二人です。
この診療所に、私が初めて“腰痛”で通院したときに診察してくださったのは院長でした。
痛みをこらえながら診察室の椅子に座った私に対し、院長はどっしりと向き合って「どうされましたか…?」と、まず症状についてお尋ねになりました。
痛みや辛さ、そして一刻も早く、この状態を収めて欲しいという、今考えればまとまりのない私の話に、院長はゆっくりと
うなずきながら耳を傾けてくださったのです。たったそれだけのことなのに、自分の症状を話し終えた私は、なぜか「腰の痛み」に対する不安が薄らぎ、「この先生ならなんとかしてくれる…」という安心感にさえ包まれていました。
診察の後、院長がご提案くださった治療方法は決して特別なものではありませんでしたが、不思議と診察室から出るときには、すでに腰の痛みが和らいだように感じていました。これこそ、私の考える「気持ち」に対する「ケア」なのです。
私はすっかり院長のファンになりました。
この時、私は何十分もの時間を使って症状を訴えたわけではありません。たった1分、院長に話を聞いていただいただけで、痛みに対する不安、つまり「気の病」から解放されたのです。
おそらく診察室にいた時間は3~4分程度だったと思います。
一方、別の日に“副院長”の診察を受けたのですが、副院長は、おそらく時間がないのでしょう。
問診の際にカルテに何かを書きながら話を聞いて、私の方を向いてくれません。
私は「本当に私の状態をわかろうとしてくれているのだろうか…?」という不信感を覚えました。
その後、副院長は、むしろ院長より、じっくり時間をかけて症状や治療法について、事細かく親切に説明してくれたのですが、
院長のような「安心感」は感じられませんでした。つまり、結果的に非効率な接し方だったのです。
私の家族は、今でもその診療所に通っていますが、診療所が混雑していて待ち時間が長い日は、院長の診察日、
そうでない日は副院長の日だと分かるようになりました。
「よい接し方」=「じっくり時間をかけた診察」ではない…!
院長と副院長の診察の違いは何でしょう…?
それは、患者さんの「話を聞く姿勢」です。決して時間をかけることではありません。
人間には、「自分の話を聞いてくれる人の話を聞く…」という習性があります。
まずは、患者さんの訴えを全て吐き出させるのですが、その時のポイントは、次の2つです。
(1)すべての行動を止めて話を聞く
何かをしながら話を聞く「横向きの1分」は、人と向き合って話を聞く「正面を向いての10秒」と同じです。 忙しいからと「横向き」で聞くことは、かえってコミュニケーションの効率を落とすことになるのです。
(2) 話を聞きながら、ゆっくり3回うなずく
人は、納得して話を聞いている時には、ゆっくり3回以上うなずく仕草をします。
せっかちに「ふん、ふん、ふん」と相槌を打つのではなく、話を聞きながら、ゆっくりとうなずくのがポイントです。
「興味をもって話を聞いてもらっている…」という印象をより強く残すことができます。
効率的なコミュニケーションとは…? 【患者さん編】まとめ
「聞く姿勢」を極めることこそ、短時間でも患者さんに安心感を与える、効率的な診察を実現する最短距離。
【院内スタッフ編】 : 「院内スタッフ = パートナー」との人間関係
「院内スタッフ=パートナー」という考え方
前のレポートで患者さんとの接し方について解説しましたが、ここでは、院内スタッフとの人間関係について考えます。診療所も一般の企業と同じく、医師や看護師の他にも、受付、医療事務など多くのスタッフが働いています。もちろん診療所の主役は医師ですが、その医師も、多くのスタッフにサポートされて、はじめて満足な医療が実現できているはずです。
“院内で働くスタッフ”は、院長にとって、なくてはならない「パートナー」だと言えます。
人間は、指示や命令より、感情が行動の質を変える生き物と言われています。
だからこそ「大切にされている」と感じるとその人の「役に立ちたい」と思うのです。
感謝や思いやりを持って接し、“パートナー”である院内スタッフに「あの院長のために…」「あの院長のためなら…」と思って
もらえることは、結果的に効率的な医療にもつながるのではないでしょうか。
◎パートナーと円滑な関係を築く
立場や役割の違いはありますが、同じ医療の現場で共に働くパートナーと円滑な人間関係を築くために、ぜひ、次の3つのことを実践してみてください。
(1)「甘えない」と決める
「甘える」とは、自分から何の努力もせず、プライドも遠慮もなく相手からしてもらうことだけを期待している他力本願な状態です。スタッフのサポートを当たり前だと思わず、感謝して受け取りましょう。
(2)周囲へ負担を掛けていることを恐れない
「迷惑をかけちゃいけない…」と思うと何事にも萎縮してしまって、能力を発揮することができなくなってしまいます。
人は誰でも多かれ少なかれ、集団生活の中では、他人に負担をかけたり頼ってしまっているものです。
その細かなひとつひとつをなくしていこうという努力より「その分多くの幸せを返そう」「かけた負担の10倍を恩返ししよう」という気持ちでいる方が、結果としてチームの能力が効率的に発揮され、総合的にみたときにチームとしての負担が少なくなっているはずです。
(3)欠点をさらけ出す
“営業畑”にいる私が思うに、周囲のスタッフが応援したくなるのは、バリバリの優秀な人より、人間味のあるタイプの人です。それは医療の世界でも同じではないでしょうか…?
治療とは関係のない場面では、ちょっとカッコ悪い欠点をさらけ出す院長。でも診療する時は、素晴らしい集中力を発揮する。
そんな院長が「私は、抜けているところがあるからね。私には○○さんのような頼れるパートナーが必要だ…」と言われたら
スタッフはどう考えるでしょうか…?
本当のパートナーは、そのような「院長の欠点をカバーするようにサポート」してくれるはずです。
◎忙しい現場でも、日常的なやりとりの中で感謝を伝える
多忙を極める医療の現場では、スタッフへの感謝や思いやりを表すことは難しいかもしれません。
しかし、ちょっとした心がけひとつで、スタッフに「ありがとう…!」の思いを伝えることができるのです。
(1)「お疲れさまです」の一言を忘れない
日々の現場で関わりの強いスタッフに限らず、例えば、清掃などのスタッフとすれ違ったときにも「お疲れさまです…」の一言を忘れないようにしましょう。
(2)目を見て話す
人は目を見て話されると、他の誰でもなく自分に話しかけられていることが明確になるので、「選ばれている=大切にされている」という認識を持ち、話を聞く意識も態度も変わります。以前のレポートで解説した「横向き1分=正面を向いての10秒」と同じように、効率的なコミュニケーションをとることができます。
(3)名前で呼ぶ
院内のスタッフの名前を全て覚えるのは難しいかもしれませんが、「名前で呼ぼう」と決心して続ける努力を行うことが大切です。
効率的なコミュニケーションとは…? 【院内スタッフ編】:まとめ
「やってもらう…」ことは当たり前ではない…!
スタッフに「ありがとう…!」の思いを伝えることで、働きやすい現場を作りましょう。